日本航空株式会社(JAL)と鹿児島県の瀬戸内町は、2023年に奄美アイランドドローン株式会社というドローン運航会社を共同で設立。奄美大島の離島の防災や物流を新たに支えるドローン事業を開始し、高性能気象IoTセンサー「ソラテナ」5台を運航の可否判断などに役立てています。
島の暮らしを支えるドローン事業における観測データの具体的な活用方法について、奄美アイランドドローン株式会社 岡野雅樹氏(日本航空㈱より出向)、日本航空株式会社 エアモビリティ創造部 秦野勇作氏に伺いました。

航空会社と地方自治体が協力し、ドローン物流の離島モデルを実用化へ
鹿児島県本土から南西約450kmに位置する瀬戸内町は、本島(人口約7000人)のほか、加計呂麻島(かけろまじま、約980人)、与路島(よろじま、約60人)、請島(うけじま、約90人)という3つの「離島の離島」で構成される町です。離島への交通手段は、本島からのフェリーなど船舶のみ。荒天で出航できないことも多く、安定的な物流や自然災害時の対応に課題がありました。
「海上移動は時間がかかるうえに、ひとたび遠く南洋で台風が発生すれば、頭上は晴れていても高波で欠航になります。さらに、天気次第では欠航が数日続くこともあり、島民への医薬品や生活用品の配送が滞ります。また、災害時には、物資輸送の遅滞に加え、集落の孤立化という離島ならではの問題もあります。そこで、瀬戸内町とJALは、こうした地域課題の解決に、船舶以外の選択肢となるドローン物流の実用化を約3年前から進めてきました」(岡野氏)


遠く離れた離島への目視外・遠隔運航には、精緻な気象データが不可欠
奄美アイランドドローンの主力機は、最高速度72km/h、最大積載量15㎏、「空の軽トラック」といわれる大型物流ドローンです。奄美大島の手安(てあん)ヘリポートを出発地とし、与路島の与路港と請島の池地港までの2航路を、月8便、往復運航しています。具体的には本島側で荷物を積み込んだ上で、自動飛行させ、与路港や池地港に着陸後、自動で貨物を置き配し、本島に帰着するという流れです。
この大型物流ドローンは、「目視外・遠隔自動運航」といわれる高度なドローン運航によって飛行します。操縦士は、基地局にて、機体から送られる機上カメラ映像や位置・速度・燃料などのデータはもちろん、出発・到着地点それぞれの気象データもモニターしながら、必要に応じて手動操作を加えます。こうした高度なドローンの運航には、JALが航空事業で培ってきた安全運航ノウハウが活かされています。

基地局は、通信環境が整えばその設置場所を選びません。現在、奄美アイランドドローンの基地局は、東京の品川にあるJAL本社内にあります。 「日々の運航を担う遠隔操縦者にとって、精緻な気象情報はドローンの安全運航に欠かせないものです。ドローンの機体性能は、着陸時の降水量は5mm以下、風速は10m以下と決まっています。とくに風速は0.1mでも超えると離着陸は不可とされているくらいなので、正確さが求められます。また、気温が上がると最大積載量は減ってしまうので、暑いときは荷物の重さには注意を払っています」(岡野氏)
そこで正確な気象データを測定できるように、試験段階から、気温や雨量、風速など複数の気象要素を1分ごとに観測する小型の気象IoTセンサー「ソラテナ」を活用しました。
現在、定期運航ルートの出発地である本島の手安、到着地の与路港と池地港の3地点、そして、災害時を想定して、本島の久慈および加計呂麻島の瀬相の2地点で、計5台を設置。

前日の夕方と当日の朝に雨・風・気温の予測データを確認するほか、離陸前にも観測データをチェックして、最終的な運航の可否や飛行のタイミングを判断しています。

“高波の影響でフェリーは欠航も、ドローンは風がおさまるタイミングを見計らって無事配送” ドローン事業の初フライトとなった2024年2月29日は、定期船が欠航になるほど波が高かったそうです。そんな中でも、ドローンは風がおさまったタイミングを見計らって離陸。本島を出発して、南西に約18km離れた与路島に無事に着陸し、物資の配送が完了したのでした。
「与路島までは、定期船だと片道1時間20分ほどかかるが、ドローンなら3分の1の約30分で到着できます。精度の高い気象データを活かし、荒天時でも風がおさまったタイミングを見極めれば、安全に離着陸できることも証明されました」(岡野氏)

現在、ドローンで配送している生活物資は、離島の住民への医薬品や新聞、小中学校への生鮮食品を含む給食食材などです。 「災害時には、水や食料をはじめとする防災備蓄品や救援物資の緊急輸送も視野に入れています。ただ、いざ緊急事態になったとき、はじめてドローンを飛ばそうとしても即応できません。平常時から、非常時に備えた運航体制を確立しておくことが必要です。こうした防災の観点からも、日々の暮らしを支えるドローン配送は重要だと考えています」(岡野氏)
このように、気象データの活用は、生活物流や防災といった離島の課題を、ドローンというエアモビリティで、解決する一助になっています。
蓄積される観測や飛行データを分析し、エアモビリティの可能性を広げたい
ドローン物流が定期的に就航するようになって約半年、今後の展開として瀬戸内町の地域活性化や持続可能なまちづくりにも注力していきたいと話します。
「現在は、岡野さんのように、奄美アイランドドローン社へJALから出向した操縦者が遠隔操縦を担っています。今後、名実ともに地元に根差したドローン運航会社として発展するため、地元の人たちがドローン運航を担っていけるよう、操縦者の人財育成・訓練を進めています。こうした支援によって、瀬戸内町のドローン事業が発展し、雇用機会も生み出せると期待しています」(秦野氏)
日々蓄積される運航データを分析することに、エアモビリティ・ビジネスの広がりを感じているともいいます。 「過去の観測データと実際の飛行データを分析していくことで、航路や飛行のタイミング、輸送にかかるコスト面などの最適化を提案できるはずです。こうしたドローン・オペレーションの実績と安全運航に関する知見を活用しながら、JALは、奄美アイランドドローン社の事業拡大、ひいては、日本各地におけるドローン運航の社会実装を支援していくことも思い描いています」(秦野氏)
ドローンによる物流の社会実装が本格的にスタートした今、精緻な気象データ×エアモビリティの可能性は計り知れません。
