「誰でも手軽に農業をIT化できる」というコンセプトのもと、セラクが開発した「みどりクラウド」は、ITで高付加価値かつ生産性の高い農業を実現するクラウドサービスです。難しい設定や設置工事の必要がなく、機器に電源を入れるだけで農業IoTを始められます。
「みどりクラウド」のサービスでは、ウェザーニューズ社の気象データ提供・分析サービス「ウェザーテック(WxTech®)」を導入しています。スマート農業を支える気象データの活用事例についてお話をうかがいました。
気候変動が進む今、気象データを活用したリスクマネジメントが不可避
2015年に開発以降、現在まで全国47都道府県に約2500台の累計出荷実績を誇る「みどりクラウド」では、圃場(ほじょう)環境のモニタリングや制御、農作業の管理、農業データ分析といったサービスのほか、スマートフォン向けのアプリ「営農支援アプリ」でも生産者の農業経営をサポートしています。まずは、そのサービスにウェザーテックを導入した理由について担当者にお聞きしました。

「営農支援アプリでは、『青果物市況情報』『農薬検索』『気象予測』『生産計画』という、大きく分けて4つのサービスを提供しています。なかでも、気象予測の情報は大事な柱のひとつ。農業と天気が密接にかかわっていることは言うまでもありませんが、圃場単位で精度の高い気象予測の情報を提供できるのは生産者に非常にメリットのあるサービスだと考えました」(セラク)
たしかに、これまでの気象の傾向に変化が見られなければ、過去に培った経験と勘による農作業で対応することも可能だったはず。ところが、気温の上昇や大雨の頻度増加など気候変動が全国的に進行している近年では、過去の経験や勘だけに頼ることができなくなっているといいます。
「これからの農業は、自分の圃場の気象予報をリアルタイムで確認し、的確に対応していくことで生産者のリスク回避につながる可能性が高まると推測できます。これだけ気候変動が激しい今、もはやデータを活用しなければ、農業のリスクマネジメントは難しい時代といえるのではないでしょうか」(セラク)
生産者に役立つデータの細かさ、精度の高さ、見やすさが好評
予報地点のメッシュが“1kmメッシュ”という極めて細かく、予報精度の高いデータを活用できることも、ウェザーテックを導入する後押しになったと言います。
「以前、使用していたのは気象庁による5kmメッシュのデータでした。ところが、『5kmメッシュのデータでは広範囲すぎて使いにくい』という声が聞こえてくるようになりました。たとえば圃場が山間部にある場合、5km先は山の反対側だったり標高にかなりの差があったりして、必ずしも示すデータが参考にならないケースも生じます。
ユーザーである生産者にとって大切なのは『自分の畑の上の天気はどうなっているのか?』という点。求められるのは、狭い範囲での精度の高いデータだったのです」(セラク)
加えて、ウェザーテックのデータの見やすさにも高い評価を得られていると言います。
「数値や折れ線グラフで表示されるデータより、『雨が降るのか、晴れるのか?』を瞬時に判読できるアイコンによるデータのほうが生産者には馴染み深く、使いやすいことがわかりました」(セラク)

雨や気温の高精度な気象データで農業経営のリスクを回避
ウェザーテックの気象データをはじめ、農業にさまざまなデータを活用することで得られる効果は想像以上に大きいといいます。アプリ「営農支援」では、「雨」と「気温」の予測データが利用者からのニーズが高いです。
「農業生産者にとって、雨が降るか降らないかはとても重要な情報です。ハウス内に雨が吹き込むと、農作物の品質低下や生育不良だけでなく、病害を招いて生産量を大きく低下させてしまう恐れもあります。
温度管理も農作物の出来を大きく左右します。農作物にはそれぞれ生育適温があるので、ハウス内はそれぞれの青果に適した温度になるよう調整しています。しかし、夏や冬は、ハウス内の温度を生育適温の範囲内に抑えるがとても難しいのです。例えばイチゴは、冷涼な気候を好みますが、外気温が低い冬でも日射しが強いと、ハウス内はすぐに温度が上がってしまいます。
生産者にとって自分の圃場に雨が降るか、気温はどれくらいになるか、という予測データは死活問題です。正確なデータを入手できる仕組みがあれば、リスク回避の事前対策ができるようになり、安定した農業生産を実現することができます」(セラク)

ちなみに、セラクでは、そうした「データを活用して農業の効率化を図りたい」と考えている生産者の支援をはじめ、「データを活用してビジネスのDX化を実現したい」という農業関係のビジネスを検討している人の支援もおこなっています。
今後は出荷量の予測モデルを開発、生産者や流通の現場のフードロス問題も解消
「みどりクラウド」事業の新たなプロジェクトとして、出荷量の予測にウェザーテックを活用することも考えているとのこと。2021年5月には、農林水産省による「革新的営農支援モデル開発事業」としても採択されています。
背景には、天候によって圃場環境が変動するため、農作物の出荷量の事前把握が困難であることが、生産者や青果流通事業者にリスクを与えるだけでなく、消費者への安定供給の障壁となっているという課題があります。
「ウェザーテックの気象データを活用することで、『この農作物は、この産地からこのくらいの収穫量が見込めるだろう』と事前に出荷量を予測できることが望ましいと考えています。
今、注目されている“フードロス”は消費者だけの問題ではなく、生産や流通の現場でも起こっていること。『たくさん作りすぎたから、値を下げないために農作物を畑で潰そう』などというロスも軽減できるようになるでしょう」(セラク)
セラクでは、効果的な気象データをもとに適正な量の農作物の生産や流通の安定化を実現することで、今後は営農支援だけでなくCO₂排出量を抑えた環境に優しい農業支援にも取り組んでいくといいます。