2026年1月に竣工予定の地上13階、地下2階建てのオフィスビル「WORK VILLA YAESU」を手掛ける清水建設は、建設現場に高性能な気象IoTセンサー「ソラテナPro」を導入。熱中症をはじめ、強風や落雷など、工事現場におけるさまざまな安全対策に観測データを役立てています。屋外作業でどのようにデータを活用しているのか、清水建設株式会社の東田氏に伺いました。
建設現場の熱中症対策に課題、暑さ指数を事務所から遠隔モニタリングしたい
現在建設中の「WORK VILLA YAESU」は東京都中央区の八重洲通りと昭和通りが交差する角地に立地しています。
「多くの建築現場では、急激な気象変化や夏場の熱中症などのリスクがあるため、働く人たちの安全対策が課題になっています。とくにコンクリートジャングルの都市部では熱中症が問題で、日陰があるかどうかで同じ現場でも気温差が生じるので、きめ細かい対応が求められます」(東田氏)

以前は、現場の休憩所に「暑さ指数」を測定するWBGT計測器を1台設置して、熱中症対策をしていました。
「普段私が仕事をしている事務所から建設現場までは徒歩5分ほどの距離があり、わざわざ足を運ばなければ現場のリアルなデータを確認できませんでした。5分とはいえ、熱中症対策は一刻を争うもの。タイムリーに対策できているのだろうかという懸念がありました」(東田氏)
そこで、現場環境の管理を主な目的とし、気温や湿度、風速など7つの気象要素を1分ごとに観測する気象IoTセンサー「ソラテナPro」を2024年6月に導入しました。

事務所の大型ディスプレイに気象リスクを表示、より早く職長へ伝達
現在、「ソラテナPro」は近隣のビルの陰の影響を受けず、かつ作業現場にもっとも環境が近い位置を選び、地上から3mの高さに設置されている。今後は上層階への作業現場の移動に合わせて、最適な場所に随時変えられる予定です。

暑さ指数や風速、雨量などの観測データは事務所の大型ディスプレイに表示して、誰でも見られるようにしています。事務所から現場のリアルタイムな気象データとライブカメラの画像をあわせてモニタリングすることで、現場の安全管理に努めています。
「デスクワークをしながら観測データを随時監視しています。朝礼や昼の確認会では、現場で働く職人さんを指揮監督する各部門の職長に、今後の強風や雨、熱中症リスクを伝えて作業計画を調整します。また、天気の急変や熱中症リスクに変化があれば、随時職長へ伝えます。そこから職長が最大50名の職人さんにメールや電話でこまめに情報共有し、警報も見落としがないようにしています」(東田氏)

夏はスポドリやかき氷の差し入れで健康管理を徹底、突風・大雨時はクレーン作業の中止を促す
「ソラテナPro」を導入したことで、30分ごとに休憩をとるなど職人さんの健康管理を徹底できるようになり、熱中症リスクの低減につながっているとのこと。熱中症リスクは、環境省の計算式に基づいて算出し、ほぼ安全/注意/警戒/厳重警戒/危険のランクで1分毎に自動判定。「厳重警戒」が表示されたら現場にいる職長に連絡し、休憩の頻度を上げるよう促すといいます。
「気温が35℃を超える日は10時の休憩時にスポーツドリンク、15時の休憩時にかき氷をそれぞれ現場に差し入れします。40℃を超えた場合は、作業は即時中止しますが、これも「ソラテナPro」の導入により遠隔地でも迅速な対応が可能になりました」(東田氏)
熱中症のほかには、強風もリスクになるそうです。
「10分間の平均風速が10m/sを超えるとクレーン作業は中心になるため、風速の確認は欠かせません。観測データを見て風散養生をするケースもあります。台風時には、現場を覆う仮囲いやロープで補強するなどの対策もおこないます」(東田氏)

また、実際の観測データだけでなく、天気予報も活用。雨雲レーダーや雨や落雷の予報を確認して、現場スタッフの安全対策に活かしています。
「雨が降ると、鉄の資材でできた足場が滑りやすくなるので注意喚起が必要です。地下部分への浸水を防ぐために、シートをかけて迅速に養生の作業にあたることもあります。落雷のリスクがあるときは、リスク回避のためにクレーン作業を中止します」(東田氏)

デジタルの力で現場環境の「見える化」を目指す、気象データは重要なファクターに
今後はあらゆるデータを駆使して現場の可視化を進めていくと話します。
「『現場環境を見える化』の実現には、カメラやドローンを設置するなど、さまざまな角度からの情報が必要になるはず。気象データはその中核を担うファクターのひとつだと考えています」(東田氏)
また、清水建設では働き方改革もテーマに掲げており、今後は従業員のさらなる安全確保と作業効率の向上に気象データを上手く活用していきたいと意気込みます。
