山形県米沢市内の中学校では、熱中症対策として高性能な気象IoTセンサー「ソラテナPro」を導入。学校のグラウンドにおける気温や湿度の観測データをもとに算出されたリアルタイムの「暑さ指数」を活用し、近隣の小中学校と情報を共有することで、児童生徒や教職員たちを熱中症の危険性から守っています。
観測データの活用によってどのように変化したのか、米沢市教育委員会 教育指導部 学校教育課 課長 五ノ井智子氏と課長補佐 島貫雄一氏に伺いました。
夏場に続く猛暑、校庭で1分毎に算出される「暑さ指数」で児童生徒の熱中症を回避
米沢市のある山形県は盆地状の地形であるため、昼夜の気温差が大きいことでも知られています。特にここ数年は気候変動の影響も受けて夏場に猛暑が続くことも多く、2023年7月には部活動から帰宅途中の女子中学生が熱中症と見られる症状で搬送され、死亡する事故が起きています。
「これまでも米沢市小中学校熱中症対策ガイドラインにしたがって、定期的に『暑さ指数』を測定し、適切な対応をおこなっていました。『暑さ指数』を測定するWBGT計測器の個数も増やし、各教室数分や中学校では部活動分を備えるなど熱中症対策にも積極的です。ただ、それでも予防措置としては不十分だと考え、『暑さ指数』の精度と頻度が高い「ソラテナPro」を導入するに至りました」(五ノ井氏)

「ソラテナPro」は気温や湿度など1分毎に計測したデータをもとに「暑さ指数」を自動で算出します。「暑さ指数」はパソコン版の専用ウェブサイトやウェザーニュースアプリを通じてリアルタイムで確認でき、危険な数値になるとお知らせも届きます。


米沢市内の小中学校11校でデータを共有、4段階の表示で安全管理を徹底
米沢市では、市内の東西南北の地区に1基ずつ、計4基の「ソラテナPro」を学校敷地内の照明灯や自転車小屋の上など地上から高さ2m以上の位置に設置し、市内にあるすべての中学校7校と小学校4校の計11校で観測データを共有。教職員をはじめとする学校関係者は、主に授業の前や休み時間、部活動や下校のタイミングで「暑さ指数」を確認しています。
「データのチェック方法は学校によって様々で、教職員それぞれのパソコン画面で確認することもあれば、学校によっては職員室に掲げられたモニターに常時表示されていることも。配信されたデータをより見やすくホワイトボードに手書きで書き入れて注意喚起をうながしているケースもあります」(島貫氏)

「暑さ指数」は、「注意」「警戒」「厳重警戒」「危険」の4段階で表示されます。
「『注意』のときは、運動の合間に水分や塩分を補給するなど熱中症の注意を十分におこないます。『警戒』の場合はそこに30分の休憩が加わり、『厳重警戒』のときは、体育の授業や部活動では激しい運動は行わずこまめに休憩をとり水分・塩分の補給を行う、『危険』のときは原則休みになります。このように、暑さ指数のレベルにあわせて、熱中症対策を徹底している現状です」(五ノ井氏)
厳重警戒まで熱中症リスクが高まる予測が出た場合、部活動や学校行事を含めた学校活動については、臨時の職員会議を開くなどして実施可否の確認をおこなっています。
「従来のWBGT計による計測の場合は、計測した時の数値で判断せざるを得なかったですが、ソラテナProでは実際にグラフ化された計測値を見て、グラフの波形から目先を予想することができます。より適切な判断ができるので、安全対策の精度もより高まった印象です」(島貫氏)

5か月にわたる教職員の熱中症対策業務の負担も大幅削減
「ソラテナPro」導入後、児童生徒や教職員を熱中症から守る安全管理はより進んでいるとのこと。その他にも、熱中症対策に関する教職員の負担が大幅に減ったことも大きな収穫だったといいます。
「導入前は、学校のグラウンドや体育館、特別教室といった空調設備非対応エリアを使用するときなどには、教職員たちが休み時間を利用して約1時間毎に数か所を見回っていました。手持ちのWBGT計測器を使って数値を確認し、熱中症対策に努める必要があったからです。熱中症対策のための計測は、6月ごろから開始し10月中旬あたりまで毎日続きます。「ソラテナPro」導入後、その膨大な労力と時間が大幅に削減されたのは、非常に画期的なことだといえるでしょう」(五ノ井氏)
実際に現場で働く教職員のみなさんからの評判も上々とのこと。
「『人が計測することによる誤差がなくなるので、これまで手持ちのWBGT計測器を使って計測してきたものと比べて信頼性が高い』『安全管理の判断の根拠となるものが専門的なデータによって数値化されていると安心できる』『これまでより見やすくなった分、こまめに暑さ指数を確認するようになった』『現場に赴くことなく適切な判断ができるのでその分の時間を有効に使える』という声も聞いています」(島貫氏)
雨など熱中症以外の気象データも安全安心な学校活動に役立てたい
今後の熱中症対策としては、リアルタイムで更新されていく「ソラテナPro」の観測データだけでなく、72時間先までの天気予報や雨雲レーダーなどさまざまな気象コンテンツを活用していきたい、と今後の展望を語ります。
「サッカー、野球、テニス、ソフトボール、陸上など、天候が影響する屋外の部活動は数多くあります。気象データを活用して天候の急変が予測できるようになれば、『部活動の開始を30分遅らせよう』『部活動は中止して下校時間を1時間早めよう』など、今より少し前から安全対策が可能になるはずです」(五ノ井氏)
これからも熱中症から児童生徒をできる限り守れるよう、米沢市は授業や部活動の実施判断に気象データを役立てていきたいと考えています。
