「出前館」は、1999年に創業した国内最大級のデリバリーサービスで、全国47都道府県にサービスを展開しています。「出前館」は顧客満足度のさらなる向上を目指して、ウェザーニューズ社の気象データ提供・分析サービス「ウェザーテック(WxTech®)」の「1kmメッシュ実況天気」を導入しました。
実況データを活用するメリットや効果などについて、株式会社出前館 プロダクト本部 デリバリー部部長の平良拓郎氏に伺いました。
配達の遅れによるユーザーのストレスを軽減するため、気象データに白羽の矢
「出前館」は、好きな加盟店のメニューをオンラインで注文し、自宅まで届けてくれるデリバリーサービスです。デリバリー機能や配達ネットワークを持たない弁当やお惣菜、日用品などの店舗の配達代行も請け負います。気象データを活用しようと考えたきっかけはどこにあったのでしょうか。
「コロナ禍を経て、デリバリー需要が増加したなか、ユーザーがより快適にサービスを利用できるように、様々な工夫を重ねています。その中でも特に力を入れて取り組んでいるのが、配達予定時間の予測精度の改善です。ユーザーにとって『いつ届くか』は非常に重要だからです。
ユーザーが『出前館』のアプリやサイトで注文をする場合、『注文からお届けまでにかかる時間』として配達予定時間が提示されます。この誤差が少なければ少ないほど、ユーザーはストレスなくサービスを利用できますが、逆に誤差が生じると大きなストレスとなって顧客満足度の低下に直結し、売上げダウンにもつながります。
弊社では、『平均配達時間は30分以内』『10分以上の遅延ケースは5%以内』という目標を掲げ、配達予定時間の予測精度向上に取り組んできました。
現在は、機械学習を活用して自動で配達時間を算出しています。日付やエリア、料理の準備時間といった店舗データに加え、配達員がいつ店舗に到着できるかといった様々なデータを学習させています。今後、さらに精度を上げるにはどのようなデータが必要か検討するなかで、天気や気温などの気象データの活用に着目しました。」(平良氏)

「気象データ×デリバリー」で、雨の日の「外に出たくない」ニーズを逃さない
気象データの活用は初めてだったと言いますが、実は天気とフードデリバリーには以前から相関関係があると感じていたそうです。
「雨などの悪天候時は、事故などのリスクが高くなるため、配達員はより安全にゆっくり走行します。さらに、濡れないように注意するなど商品管理も厳重になるため、基本的に配達時間が遅れる傾向にあります」(平良氏)
気象が配達時間に与える影響は、このような直接的なものだけではありません。
「雨風が強いときや降雪など荒天の日には『外に出たくない』という心理からユーザーのニーズが高まり、注文数が増えます。ところが、外出を避ける傾向があるのは配達員も同じです。気象によって配達の稼働率が大きく変わるため、配達時間にも影響を及ぼすのです」(平良氏)
そこで、2022年7月から全国10,000地点の「1kmメッシュ実況天気」のデータを試験的に導入しました。「1kmメッシュ実況天気」は、1kmメッシュの解像度で、10分ごとの天気の実況解析値をAPIで提供するサービスです。「データの細かさ」と「更新頻度の高さ」がデリバリーのニーズにマッチしたと言います。
「他社のデータとも比較してみましたが、『1km』という細かいエリアでの天気の実況データは他にはありませんでした。市区町村単位などの広域なデータだと、デリバリーで活用するには使い勝手がよくありません。
たとえば、ひと口に目黒区といっても、住宅地と商業地域がバランスよく混じっていて、飲食店も非常に多い中目黒周辺とそのほかのエリアではユーザーのニーズに相当な差があります。
交通情報や立地や地域性などの店舗データに、1kmメッシュという細かいエリア単位の気象データを加えることで、より精度の高い配達予定時間を算出できるようになるのです」(平良氏)

加えて、夏の時期は天気が急変しやすく、短時間で大雨や落雷が発生することもあるので、「10分ごと」という更新頻度の高さも、導入する上で大きな評価ポイントになったと言います。
「例えば、“今日はランチを食べに外出しようと思っていたが、雨が降ってきたので急遽『出前館』を利用しよう”と考えるユーザーが増えた場合でも、機械学習システムにピンポイントの気象データがプラスされていれば、より正確な配達予定時間を提示できるようになるので、大きな強みになります」(平良氏)
配達予定時間の精度向上に加え、ユーザー・店舗・配達員のすべてにメリットが生まれる好循環
2022年10月に「1kmメッシュ実況天気」を本格的に導入してから、継続的に改善を続けることで、現在は『平均配達時間は30分以内』『10分以上の遅延ケースは5%以内』という目標はほぼ達成することができていると言います。配達予定時間の誤差についても、以前は7~8分だったところ、導入後は2~3分まで短縮できるようになっています。
「もちろん、気象データだけが要因ではないと考えていますが、実際に配達時間の予測精度が向上し、気象データの力を借りることによる顧客満足度への好影響を十分に実感しています」(平良氏)
さらに、現在は「配達時間の予測」だけでなく、「店舗の商品準備時間の予測」にも気象データが活用されています。これによりユーザーだけでなく店舗や配達員といった、フードデリバリーに携わるすべての人たちがメリットを得られる結果になったと言います。

「デリバリーの注文が入ると、店舗での商品準備時間が配達員に通知されます。荒天時は店舗にオーダーが集中するので、いつもより長くなることがありますが、気象データを活用することで、商品準備時間をより正確に予測できるようになりました。
その結果、配達員が適切な時間に商品を受け取れるようになったのです。荒天で店舗が混んでいるなか、配達員が長い時間待機しなければならないという事態が減り、店舗側にも良い効果がもたらされました。
このように、気象データを取り入れたことで、配達予定時間の予測精度を高めるだけでなく、配達にかかる時間自体の短縮にも繋がりました。顧客満足度の向上に加え、店舗や配達員にとっても、非常によい循環を生み出す結果となったのです」(平良氏)

デリバリーの枠を超えた新規事業でも気象データは欠かせない
「気象データ×デリバリー」は、日用品や生活必需品などを迅速にユーザーの元に届ける「クイックコマース」の分野にも広がる可能性があるのではないか、と平良氏はみています。
「出前館のフードデリバリーでも広く認知され、ユーザーに根付いたのは、『ほしいものはすぐに届けてもらえる』という意識ではないでしょうか。それは食べるものだけでなく、コンビニやドラッグストア、スーパーマーケットなどで販売している日用品や生活必需品に対しても同じことがいえるでしょう。
『平均配達時間は30分以内』という目標が達成できつつある今、高いスピード性を持ったデリバリーを可能にできるのは弊社の強みになるはず。『迅速で正確な予測時間でほしいものを運ぶ』というニーズをかなえるためには、気象データは欠かせないと考えています」(平良氏)
スピード性が重視される時代に、デリバリー業界を牽引し、ユーザーの価値観に沿ったサービスを提供し続ける出前館の新しい分野への挑戦に注目です。