フジロックフェスティバル(以下、フジロック)は、今や夏の風物詩となっている大規模な野外音楽イベントです。1997年に日本初の大型ロックフェスティバルとして山梨県で初開催。1999年の3回目からは新潟県の山間部に会場を移し、今年で27回目となりました。
そんなフジロックでは、山間部におけるフェス運営の安全対策に気象IoTセンサー「ソラテナPro」とお天気アプリのビジネス拡張版「ウェザーニュース for business」を導入しています。
イベント運営での気象データの具体的な活用法について、第1回目の開催からスタッフとして携わっているフジロック運営事務局の鯉沼源多郎氏にお話をうかがいました。
過去には荒天による中止もあり、安全運営には会場のピンポイントな情報が不可欠
2024年7月25~28日に開催された「FUJI ROCK FESTIVAL’24」は、前夜祭を含め4日間で9万6000人の来場者があり、今夏も盛況に終わりました。会場のある新潟県湯沢町の苗場スキー場は標高1,000mの山の中。1日を通して寒暖差が激しく、天気が変わりやすい環境です。そのため、大勢の来場者や運営に携わるスタッフの安全管理のために、気象IoTセンサーによる現場の観測データと天気予報の両方を活用しています。

「苗場の会場は、新潟県と長野県の県境にまたがる山間部に位置していることもあり、一般的な天気予報では当てはまらない地域、という印象です。4日間のイベント中はライブの時間帯だけでなく、来場者の移動時やキャンプエリアへの宿泊時など自然災害のリスクも十分に考慮しなくてはなりません。そのためには精度の高い気象情報が欠かせません」(鯉沼氏)
これまで荒天の影響を受けたケースは少ないものの、山梨県の富士山麓で開催された第1回目は、初日に台風の影響を受けて2日目からは中止になったといいます。
「当時は別の会社の気象情報を活用していましたが、山間部のよりピンポイントな情報やきめの細かいサービスを求めてウェザーニューズ社に切り替えました」(鯉沼氏)
強風の影響を受けるエリアに「ソラテナPro」を設置し、天気予報と合わせてモニタリング
気象IoTセンサー「ソラテナPro」はエントランスゲート近くに設置し、約10名の運営事務局のスタッフで常時モニタリングしています。
「ソラテナProを設置するのは、会場のなかでももっとも風の影響を受けやすい場所で、一定の風速以上になると通知が飛んでくるように設定しています。イベントが開催される約2週間前から設営をはじめ、開催後に撤去するまで約20日間、イベント開催時を含めて毎日24時間体制で気象情報をチェックしています」(鯉沼氏)
運営事務局のスタッフは、基本的には「ウェザーニュース for business」のアプリで雨雲レーダーをチェックしながら、雨や風など心配なことがあれば「ソラテナPro」の観測データを詳しく確認するというように、「ソラテナPro」と「ウェザーニュース for business」を臨機応変に使い分けています。
強風による飛来物のほか、雷の接近や大雨による国道17号の通行止めに迅速に対応
イベントを安全に開催するにあたり、もっとも気にしているのは、強風で、その他にも落雷や大雨に注意しているといいます。
「強風は施設にダメージを与えやすく、飛来物などが来場者を危険にさらす原因になります。そのため、風が強く吹きはじめたら、状況に応じ、ステージの屋根を通常より低く下げたり、テントをたたんだりと防風対策をとるようにしています。
それから、会場近くの落雷情報にはつねに敏感になっています。雷雲が向かってくる方向と時間を確認し、落雷の危機管理を徹底します。さいわい、これまで雷でライブが中断した経験はありません」(鯉沼氏)

フジロックの開催は雨天決行なので、大型の野外ステージなどは大雨でダメージを受けないような対策がとられているそうです。
「来場者の多くは、服装や持ち物などで雨対策をしっかりとして会場に来てくださっているので、風や落雷の方により注意しています」(鯉沼氏)
ただ、大雨の場合は国道が封鎖される可能性があるので、アクセス面で対策をとるシミュレーションをしているとのこと。
「会場への入退場は国道17号を通るルートしかありません。そこが基準の雨量を超えて通行止めになったときに、来場者の輸送方法やタイムテーブルの変更など対策をとる必要があります」(鯉沼氏)
規制がかかる雨量は決まっているので、大雨時は「ソラテナPro」の観測データを監視しています。
「山間部の天気は非常に変わりやすいのですが、ピンポイントでリアルな雨量の情報を正確に知ることができるようになったので、規制のリスクやおおまかなその後の天気の予想もしやすくなり、降雨対策もスムーズになりました」(鯉沼氏)

最大の強みは、変わりやすい山の天気のいまを正確に知れること
「ソラテナPro」と「ウェザーニュース for business」の導入後の最大の変化は『天気を数値で把握できること』だといいます。
「第1回目の開催から携わってきた経験値があったとはいえ、以前なら風雨は『だいたいこのくらいだからおそらく影響はないだろう』という感覚的なものでした。それが導入後は『まだ風速〇mだから問題ない』『雨量が〇mmになったから要注意』というように、確実な数値で判断できるようになりました。来場者やスタッフの安全管理はもちろん、現場での混乱を招かないという点でも満足しています」(鯉沼氏)
今後は、「山のイベント」ならではの天気の急変に備え、「ソラテナPro」の増設も視野に入れているといいます。
「山間部の天気は変わりやすいので、”先の予測”より”今のリアルな気象データ”を判断基準にすることも少なくありません。会場となる苗場スキー場は東京ドーム約14個分の広さなので、同じ会場内でも離れている場所では天気がまったく異なることもあります。だからこそ、複数のポイントでリアルタイムの気象データを入手できれば、より安全安心なイベント運営につながると考えています」(鯉沼氏)
山に囲まれた大自然のなかで、音楽だけでなくキャンプなどのアウトドアアクティビティも味わえるフジロック。今後も気象データを活かしながら、アーティストを含め来場者やスタッフ全員がトラブルなく安全に楽しめるイベントの開催を目指していきます。
