日本ラグビーの最高峰リーグであるJAPAN RUGBY LEAGUE ONE(リーグワン)では、お天気アプリ「ウェザーニュース」を企業専用にカスタマイズできる「ウェザーニュース for business」を全試合の安全運営に活用しています。アプリを導入した背景や活用方法について、一般社団法人ジャパンラグビーリーグワンの高馬新氏にお聞きしました。
試合運営で最も重要なことは安全管理、突然の雷雨や雪に備えてスタッフの連携強化が必要に
ウェザーニューズのスポーツ気象チームは、野球、サッカー、マラソン、テニス、トライアスロンなどさまざまな競技の選手・チームのパフォーマンス最大化や、大会主催者の安全で円滑な運営などを気象面から支援しています。ラグビーについては、南アフリカ戦で歴史的勝利をおさめた2015年のワールドカップからラグビー日本代表チームをサポートしています。
リーグワンの前身であるトップリーグでも2014年から本格的に気象情報の活用がはじまり、2023年12月には大会運営に特化した「ウェザーニュース for business」をリーグワン全173試合に導入しました。
「リーグワンのラグビーの試合を運営する上で、最も大切にしているのは安全管理です。スタジアムに来てくれる観客はもちろん、ピッチで戦う選手や審判などのスタッフへの安全対策を第一に考えて様々なリスクに対応しています。なかでも天候リスクは特に重要なポイントで、ゲリラ豪雨や大雪、台風や雷といった天候に関しては細心の注意を払っています」(高馬氏)

本部は観客や選手、審判だけでなく、物販や会場設営に携わるスタッフまで、安全性が保たれているかどうか、目を光らせています。
「たとえばゲリラ豪雨が発生しそうな場合は、開場時間を早めることで、外で待っている観客のみなさんを屋根のあるコンコースエリアに避難・誘導します。ほかにも、風速が7m/sを超えるような強風の場合は、テントや装飾物、広告看板などが飛ばないように対策する必要があります。
昨今は異常気象が激甚化・頻発化しており、安全に最大限配慮して運営するためには、これまで以上に精度の高い気象情報や、迅速な情報共有によるスタッフ間の連携強化が必要になっていました」(高馬氏)
全国約50スタジアムの気象情報を集約、使い勝手のいいリーグワン専用のアプリに
リーグワン2023-24シーズンは、本部だけでなく、試合に参加する全23チームを合わせて約80名がアプリを活用しています。
「12~5月のシーズン中は基本的に土日に試合が組まれるので、週明けの月曜は全国約50か所のスタジアムの一覧から開催予定のスタジアムを選んで、天気をチェックするのが日課です。
試合当日に向けて、各会場の設営や道具の運搬、選手・スタッフの移動などが滞らないよう、綿密に準備を進める必要があるので、少しでも荒天リスクがあるスタジアムは、重点的に推移を見守り続けます」(高馬氏)

全国に点在するスタジアムの気象状況をこまめにチェックする必要があるため、必要な気象情報をアプリに集約できた点も、大きなメリットになっているといいます。
「ラグビーの場合、さまざまな気象情報の中でも、試合開催の大きなリスクになり得る雨・風・雪・雷といった情報を最優先で確認する必要があります。このような私たちに必要な気象情報だけを、スタジアムごとに一覧で確認できるのは業務を効率化する上で非常に役立っています。
たとえば、予報が悪化したときでも事前に備えられるように、降水量はメインシナリオだけでなく、最悪を想定したシビアなシナリオと想定より降らない場合の3つのシナリオが見られるようになっています。さらに、各スタジアムの落雷リスクが一目でわかるようになっており、落雷に対する安全対策も徹底できています」(高馬氏)

実際、「ウェザーニュース for business」導入後の2024年1月に千葉県市原市のスタジアムで行われた試合は、ハーフタイムに雷雨が急襲したため中断に。直ちにアプリを開いて試合再開のタイミングを模索しました。しかし、その後も発雷リスクが下がらない予報だったため、試合は中断時点をもって成立となりました。
「精度の高い気象データによる裏付けがあったからこそ、自信を持って判断することができました。試合を再開することはできませんでしたが、会場全体の安全を守るために迅速かつ適切に判断できたことは、大きな成果だったと思います」(高馬氏)
試合中断レベルの大雨や雷をスマホに通知、現場のメンバーだけで適切な判断が可能に
降水予報や落雷リスク以外にも、雨雲レーダーやアラート通知を活用しているといいます。
「特に、雨や落雷などのリスクがある場合に届くアラート通知は利便性が抜群です。たとえば落雷については、地点登録したスタジアムから20km以内、次に10km以内と段階的に通知が届くように設定できます。落雷被害の多い夏場だけでなく、リスクに対して通年で十分な事前準備を行うことは、安心・安全な試合運営には欠かせません。
雷のほかにもリーグワン独自のアラート通知として、雨量や風速、台風や線状降水帯の接近などの通知が届く設定をしています」(高馬氏)
また、リーグワンでは試合運営担当者1名と、チームに帯同しているチームマネージャー1名、本部から各スタジアムに派遣されるマッチコミッショナー1名という、基本的に現場にいるメンバーが中心となり、本部と連携を取りながら試合開催可否などの意思決定を行っています。
「以前は天候に変化があるとスポーツ気象チームに電話をして、今後の予報を確認することも少なくありませんでした。ところが、人を介したコミュニケーションにはどうしてもタイムロスが生じてしまうものです。
『ウェザーニュース for business』導入後は、直接聞かなくても精度の高い気象データが揃うアプリの情報を関係者全員が手軽に共有できます。そのため、会場の状況をリアルタイムで正確に理解している現場のメンバーを中心に、より適切な判断が下せるようになりました」(高馬氏)

2024年3月、岩手県釜石市で予定されていた試合が、降雪の影響でピッチコンディションの確保が困難になり、あえなく延期となったことがあります。雪による中止は珍しいケースですが、これも「ウェザーニュース for business」を活用し、現場のメンバーからの意見をもとに本部と協議しながらリスク管理を行った一例です。
各スタジアムに気象IoTセンサーを設置し、試合環境を数値化したい
「ラグビーの価値や魅力を高め、ファンを増やしていくためにも運営側ができることはまだまだある」と語る高馬氏。
具体的には、より精細な気象情報として観測データの収集を視野に入れているとのこと。
「各スタジアムに高性能気象IoTセンサー『ソラテナPro』を設置できたら、大会運営だけでなく、選手やチームの戦略・戦術にもいかせるのではないでしょうか。雨量や風速などを1分ごとに計測できるので、試合環境を数値化してデータとして積み上げることで試合に応用できることもあるはずです」(高馬氏)
また、ウェザーニューズとタッグを組んで集客につなげるという可能性も探りたいという。
「『ウェザーニュース for business』の導入で、気象リスクへの試合運営の準備と緊急時の即時対応はさらに徹底しておりますので、ご来場の皆さんは安心して存分に試合を楽しんでいただきたいです。
累計4,200万DLのアプリユーザーがいるウェザーニューズと協力し合って、より多くの人たちにスタジアムに足を運んでいただき、ラグビー観戦の楽しさを知ってもらえる機会を作るような取り組みができることを私たちも期待しています」(高馬氏)
観客・選手・スタッフの安全を第一に、ラグビーを快適に楽しんでいただけるよう、円滑な試合開催を実現するリーグワンの取り組みに、今後も注目です。