全国の道路整備、舗装材の製造販売を行っている前田道路株式会社は、2030年に設立100周年を迎えます。建設業の働き方改革が求められるいま、天候にあわせて道路舗装の作業日を最適化するため、独自の「道路舗装指数」を共同開発し、お天気アプリ「ウェザーニュース」を企業専用にカスタマイズした「ウェザーニュース for business」を導入しました。
舗装指数を開発するまでの道のりやアプリを業務支援にどのように役立てているのかについて、前田道路株式会社 取締役 常務執行役員 技術本部長兼CSR・環境担当の守安弘周氏にお聞きしました。
天候に左右される施工現場では、急な雨や低温が品質や作業効率の低下に直結
道路の施工現場や舗装材を製造するプラント(合材工場)では、品質や作業効率の面で、季節や天候の影響を大きく受けるといいます。
「まず、施工現場は、基本的には一定量の雨が降ると舗装を中止しなくてはなりません。気温もアスファルト合材の品質に大きな影響を与えます。降雨や気温の低下によって、成形や転圧をする前にアスファルト合材が冷えてしまい、必要な強度を確保することが難しくなるのです。
また、施工現場だけでなくプラント(合材工場)でも、急な雨などの天候の急変や天気予報のズレが生じると、その日の出荷量に影響を及ぼし、舗装材のロスが発生します。
さらに、作業者の勤務計画も変更しなくてはならないので、働き方の面でも影響があります。加えて、夏場は熱中症など、作業者の健康問題のリスクも考慮する必要があるのです」(守安氏)
このように品質と働き方に大きな影響を与えていた気象情報を、これまでは上手に活用できていなかったといいます。
「責任者と現場作業員が、前日のテレビで放映される天気予報や、それぞれダウンロードしている気象予報アプリなどでチェックする程度でした。作業の中止を判断するときも、それぞれで見ている情報の違いが判断の違いにつながり、現場とのコミュニケーションが上手くとれないこともありました。
精度の高い天気予報を全社で導入することで、コスト削減から品質や作業効率の向上、さらには『2024年問題』(※)を見据えた働き方改革まで推進できると考えました」(守安氏)
※2024年問題:「働き方改革関連法」の猶予期間が終了する2024年までに建設業が是正しなければならない労働環境の課題のこと

道路工事の可否を判断する「舗装指数」を共同開発
前田道路では、当初は高精度な気象データを受け取れればいいと考えていたといいます。しかし、課題やニーズを掘り下げていくうちに、道路舗装工事に適した気象条件かどうかを把握できる「舗装指数」を共同開発する方向になりました。
「正直なところ、気温や降水量、風速といった数字だけをもとに、天気の専門家ではない私たちが状況判断するのは難しい部分がありました。だったら、ひと目で誰でも判断できるようなツールのほうが使い勝手がいいのではないか、という方向になったのです」(守安氏)
「ウェザーニュース for business」のアプリに「舗装指数」を組み込んで、2022年10月から3ヵ月間、23営業所で試験運用を行いました。50名程にモニターとして毎日使ってもらい、利用ログを分析。「その時々の気象状況でどのように施工判断をしたか」というフィードバックから、予報精度やコンテンツの改良を重ねました。
「本社と現場の間で、作業の中止を判断する際の気象条件にギャップがあることもわかりました。本社では難しいと考える気象条件でも、現場では作業が可能なケースや、逆に現場では作業が止まる状況でも、本社では作業可能と考えていたなど、考えていた以上に違っていました。できるだけ多くの現場の意見を吸い上げながら指数を調整したので、お互いの感覚の差も埋まり、双方が納得できる指標を作ることができました。
さらに、『誰でも一目でわかるように表示情報を色分けしたい』といった表示やユーザビリティに関する細かい要望にも応じてもらえるなど、サービスの拡張性の高さも魅力的でした。ウェザーニューズの営業担当者もとても熱心で、我々の要望に対して小回りをきかせながら的確に処理していただけたので、安心してお願いすることができました」(守安氏)

試行錯誤して作り上げた「舗装指数」は、施工内容を土工・路盤工・舗装工という3つのカテゴリーにわけて、3日先までの1時間ごとの天気がそれぞれの施工に適しているかを示すものになっています。具体的には、1kmメッシュで現場周辺の降水量や気温、風速を高精度に予測し、施工に適した状態を色違いの4段階でアイコン表示。現場責任者は、この情報をもとに施工の段取りや実施の可否を検討することができるのです。
試験運用を経て、2023年4月に、本支店および全国112ヵ所にある営業所、96ヵ所の合材工場に勤務する全社員での運用をスタートしました。
土木部門は全員利用、9割以上が毎日活用する脅威の普及率
前田道路専用にカスタマイズされたアプリには、メインサービスとなる「舗装指数」以外にも、各現場のピンポイントの天気予報から雨雲レーダー、台風情報、熱中症情報など道路舗装にとって重要な情報が集約されています。
「営業所では、前日の夕方に作業員と打ち合わせをするときと、当日の朝にアプリで現場の天気を確認します。プラントでも前日はもちろん、3日前から天気の推移をチェックします。施工実施の可否を判断するだけではありません。荒天の予報が表示されれば、ダンプの台数や作業員の人数などの調整も必要になります。事前に把握できることで、現場でのオーダーの変化に備えることも可能になりました」(守安氏)

新しいアプリを導入する際、「既存のアプリで十分では?」という声もあったといいますが、実際に活用してみたところ、予報精度と利便性の圧倒的な高さから社内全体に普及が加速。社内全体のログイン利用率は8割を超えています。とくに土木部門は全員が利用しており、毎日チェックしている割合は9割以上という普及率からも、その実用性が実証されています。
「新しいアプリだけでなく、既存の有料コンテンツの機能やサービスが一貫して使えるので、ストレスなく導入できたのも社員たちからの評価が高い点です。
実際に作業当日は『雨雲レーダー』と夏季の『熱中症アラート』も役立っています。雨雲レーダーについては、『ゲリラ豪雨の予報が出ているから作業は〇時までに終わらせよう』あるいは『この雨は〇時には上がるので作業はそこからにしよう』といったフレキシブルな判断ができるようになりました。
熱中症アラートはとくに酷暑だった2023年の夏は重宝し、昨年と比べて熱中症になる作業員の人数が激減しています」(守安氏)
作業に携わる全員が同じアプリを活用していることで、情報の共有がしやすくなったのも導入後に実感できたことのひとつだといいます。
「情報を共有できることで、あらゆる判断がスムーズになりました。とくに台風や雷雨などの情報は作業員の安全性の向上だけでなく、有給休暇の取得や振休・代休の消化にもつながるため、働き方改革の推進にも寄与しています。情報共有による迅速な判断の結果、作業の最適化がなされて資材ロスも削減でき、ひいては脱炭素や省資源にも期待が持てるのではないでしょうか」(守安氏)
自治体と災害協定を結び、「インフラ整備×気象データ」で復興支援の体制を整える
守安氏は「このアプリは『できたから、終わり』ではない。実用性の高さが全社員に浸透したところで、より働きやすい環境づくりを目指し、さらに使いやすいものになるよう引き続き改善していきたい」といいます。

「たとえば冬季の積雪は未経験なので、どう対応していくかという問題があります。弊社は除雪作業も請け負っていて、そのために塩化カルシウムを撒くという作業も発生します。どのくらい気温が下がって、それがどのように現場に影響を及ぼすのかなど様々な工夫ができそうです。
ほかにも、『湿度』のデータを『舗装指数』に入れるという提案も検討中です。というのも、弊社が独自の技術で開発した、水をかけて締固めをする袋詰め常温アスファルト混合物『マイルドパッチ』という補修材は、保管期間が長いので湿度の指標が明確だとロスをより軽減できるはずです」(守安氏)
毎年、台風・豪雨・地震など多くの自然災害が発生する日本が抱える社会問題へ挑戦するという目標もあります。
「道路は、災害時にも重要な役割を果たします。そのため、自治体との災害協定も結び、有事の際は積極的に気象データを活かした復興支援を行えるような形になればと考えています」(守安氏)
これまで道路産業界のリーディングカンパニーとして、けん引し続けてきた前田道路。社員の働きやすさ、施工品質の向上や環境への取り組み、社会課題への挑戦など、今後も気象データを活かせる領域を広げていきたいといいます。