2021年における日本自動車輸入組合(JAIA)の発表によると、車名別輸入車新規登録台数は過去7年間連続で首位をキープするなど、輸入車ブランドのトップランナーとして日本でも支持されているメルセデス・ベンツ。そのメルセデス・ベンツの日本法人(以下、MBJ)は、ウェザーニューズ社の気象データ提供・分析サービス「ウェザーテック(WxTech®)」の1kmメッシュの高解像度な「花粉予報API」を導入し、2021年3月からカーナビで花粉飛散量予測の表示をスタートさせています。
実際にどのようなサービスを展開しているのか、メルセデス・ベンツR&D日本 テレマティクス研究開発 李泰侃(イ・テガン)氏に伺いました。
日本の文化や習慣など独自性を重視したサービス開発に挑戦
MBJは、2017年に安全性と利便性の向上を目的とした自動車が通信する先進的なテレマティクスサービス「Mercedes me connect」を導入しました。車がインターネットと接続することで様々な情報をリアルタイムに提供できるほか、スマートフォンによる車の遠隔操作や、事故時に自動で緊急通報が可能になるなど、多くのサービスで構成されています。
李氏が所属するテレマティクス研究開発では、目まぐるしく変化する市場で「Mercedes me connect」をより充実させるために、新たなサービスを導入すべく日々取り組んでいます。
そもそも、先進企業として業界を牽引しているメルセデス・ベンツにとって、新サービスの開拓はつねに課題としてあり、「花粉予報API」の導入も新たな挑戦だったと言います。
「メルセデス・ベンツは自車のコネクティッドサービスの内容を、その国のニーズに合わせて開発できる自由があります。たとえばメルセデス・ベンツ韓国では、コロナ禍でマスク不足に陥った時、販売可能なマスクの在庫を持つ薬局をナビゲーションマップ上に表示できるサービスを開発し、多くのオーナーの心をつかみました」(李氏)

この潮流を受け、クラウドサービスを使ってナビゲーションマップに新しい情報を提供できないかと考え、日本特有の習慣や独自性の観点から花粉に着目したそうです。
「日本での新サービス開発にあたって起点となったのは、日本人の関心が高い花粉症です。他の国でもPM2.5や黄砂といった大気汚染問題が存在するのは事実ですが、スギやヒノキの花粉がこれほど頻繁にニュースで取り上げられるのは日本だけで、世界でも類を見ないでしょう」(李氏)
花粉情報は2021年3月から「Mercedes me connect」のナビゲーションサービスとしてスタートし、花粉の飛散量が一目でわかる人気のサービスとして提供しています。(MBUXを搭載したモデルの専用サービスとなり、3月から5月の期間限定で提供しています。)
「オーナーを広く取り込んでいる既存のサービスとして、充電ステーションや駐車場などの情報は一般的ですが、『目的地や今いる場所の周辺にどのくらい花粉が飛んでいるのか?』を予測し、ナビゲーションマップに表示するサービスは日本初です。花粉飛散量の予測情報の表示は、日本独自のサービスであり、メルセデス・ベンツのブランドイメージにもフィットしました」(李氏)

本国からも「かつてない!」と絶賛されたサービス開始までのスピード感
「花粉予報API」を導入する際、決め手になったのは、主に「データの扱いやすさ」「導入からサービス開始までの迅速さ」「セキュリティマネジメントの信頼性の高さ」の3点だったといいます。
「花粉予報APIはパッケージ化やモジュール化が進んでいるため、とにかく効率よく作業ができました。ウェザーテックの担当者がデータの扱い方と当社のデータ管理の仕組みに理解が深かったおかげで、技術上の話もスムーズに進行。問い合わせをしてからサービス開始まで、わずか半年で達成できたことは、本国ドイツからも『こんなに早いサービス化は、いまだかつてないスピードだ!』と称賛されました。
また、気象会社としてのネームバリューが高かったので、他の部署からの理解も得やすく、社内でもスムーズに話が進められたことも、導入までのスピードの速さの一因でした」(李氏)
さらに、情報配信の仕組みについても、セキュリティマネジメントへの信頼性の高さが高評価でした。
「車の位置情報に合わせてその都度花粉情報を取得するシステムに比べて、一括で花粉情報を取得して必要なタイミングで配信できるウェザーテックの仕組みなら、走行車の情報が即時に漏洩し、特定されるリスクはありません。これは今の時代、オーナーへの安心感と信頼感を約束するためにも必要不可欠な要素です」(李氏)
オーナーの過半数に支持され、正規販売店からの反響も大きいサービスに
花粉情報は、ナビゲーションの設定画面から花粉情報の表示を選択することで、マップ上に表示されます。1日4回更新される「花粉予報API」の情報をメルセデス・ベンツのサーバーに取得し、走行による地図の動きに合わせて随時アップデートしています。

「花粉情報は、飛散量に応じて『非常に多い』『多い』『やや多い』『少ない』の4段階のアイコンで表示されます。ちなみに、アイコンはウェザーニューズのものではなく、ブランドイメージに沿ってメルセデス・ベンツ仕様の花粉アイコンを改めてデザインしました。
走行中のエリアの飛散量を瞬時に把握するだけでなく、目的地の状況を事前にチェックした上で、花粉症対策に役立てることもできます」(李氏)
新サービスに対する実際の顧客満足度も高く、現在はオーナーの半数以上が花粉飛散量の表示をオンにしているといいます。
「充電ステーションや駐車場など、他にも地図に表示できるサービスはありますが、その中でも花粉予報をオンにしている人の割合は高いので、多くの人に満足していただけていることが分かります。
また、社内をはじめ正規販売店からの反響も非常に大きいものがありました。他にはない日本初のサービスだったこともあり、『さすがメルセデス・ベンツだね』といった声を多くいただいているのと同時に、『追加料金を支払えば、よりピンポイントな場所での花粉飛散情報を得られるのか?』などのお問い合わせをいただくことも増えています」(李氏)
花粉で終わりではなくスタート、メルセデスブランドへの期待に応え続けたい
花粉情報をスタートして2年目の2022年は、24時間先までの予測を6時間ごとに表示できるように改善して、リリースしました。今後はより一層オーナーの利便性を高めるべく48時間先までの予測の表示に加えて、さらなる先進的なサービスも検討中だといいます。

「今後は音声と連動した対話型サービスにも挑戦したいと考えています。たとえば、花粉飛散量が多いエリアを走行する場合に『窓を閉めましょうか?』と車が提案するようなサービスができるようになったらオーナーの利便性もさらに高まります」(李氏)
また、花粉以外では、春や秋など日本のシーズンにあわせた季節情報も考えていると言います。
「各国のローカルなニーズにあわせたサービス開発がオーナーに特別感をもってもらうことに繋がり、結果的にグローバルブランディングにも良い影響を与えるはずです。
そのためにも、春の桜や秋の紅葉など、今後も日本ならではのコンテンツに着目して、オーナーの『メルセデスブランド』への期待に応えられるような革新的なサービス開発に挑戦し続けます」(李氏)
花粉ははじまりに過ぎないと言い切るメルセデス・ベンツのテレマティクスの今後に注目です。