令和元年東日本台風(台風19号)で被害を受けた那珂川の築堤工事の一部を手掛ける清水建設は、河川工事の水害対策として作業所専用にカスタマイズされた「ウェザーニュース for business」を導入しています。河川工事の作業所における安全対策や作業の効率化に気象情報がどのように役立てられているのか、清水建設株式会社 土木東京支店の冨山聡志氏に伺いました。
現場周辺の水位上昇を正確な数値で事前に把握したい
河川の築堤工事を安全かつ効率的に進めるためには、天候はもちろん河川の水位の変動を正確に把握することが重要です。国土交通省は、水害が発生しやすい出水期(6〜10 月)には原則として河川工事を行わないこととしていますが、近年の気象予測技術の進展などを踏まえ、工事施工箇所周辺を含めて適切な防災措置を講じることにより、出水期間中においても施工を可能として、河川工事を発注しています。
「築堤工事の現場となる那珂川左岸小場地区周辺は、以前から雷雨の通り道になっているような印象がありました。急な降雨は水位上昇の危険性が高まるため、工事の進捗に大きな影響を及ぼします。そのため安全性を保ち、効率性を高めながら工事を進めるためには、肌感覚ではなく、正確な数値でリスクを把握する必要がありました。
特に現場の上流で降った雨による現場周辺の水位上昇に気をつけなければいけません。流域外に雨が降っても現場周辺の水位に影響しないので、那珂川の流域にどれだけの雨が降るか把握することが非常に重要になります。以前は国土交通省のウェブサイトや無料の天気予報サイトを活用していましたが、そういった細かな情報はありません。また、ライブカメラの実況データだけでなく、今後の変化予測で対応を検討したいといった要望も高まり、河川工事に特化した『ウェザーニュース for business』を導入しました。
加えて、導入前から感じていた雷雨の多さについても、実際に分析いただいて、栃木方面から流れてくることが多いとデータとして確認できました。それにより具体的な対策を講じられるようになりました」(冨山氏)

上流の降雨も考慮した流域平均雨量予測で現場周辺の増水リスクを察知、現場監督への通知で退避行動を早める
河川工事専用の「ウェザーニュース for business」は、那珂川の流域に降る雨量を示した「流域平均雨量」や、雨の降り出しから流域平均雨量を積算した「累加雨量」を提供しています。1時間毎の「流域平均雨量」や「累加雨量」の予測を72時間先まで算出しており、予測が設定値を超える場合には「注意」や「警戒」のプッシュ通知でお知らせします。

「何十キロも離れた場所の雨によって、何時間後に作業所付近の水位がどの程度上がるかわかるのがいいですね。国が定めている計画高水位を超えると危険なので、越えてないかを確認しています。基本的には警戒レベルに達する前に退避行動を取れるように心がけています。
夜に大雨のリスクがある場合には、この水位まで上がったら重機を退避するなどの対応を決めて、夜間でも手配できるように担当者に伝えておきます。事前に決めておくことで、安全で迅速な対応が可能になります」(冨山氏)
また、清水建設の現場監督だけでなく、土工事や躯体工事などの職長も利用しており、雨雲レーダーなどを日々の作業調整に活用されています。
「スマートフォンで雨雲レーダーを確認し、雨のリスクがある場合には情報を共有しています。『1時間後に雨が降るので、工事を中断して、今すぐシートで覆いましょう』などと、遠隔地から現場に指示を出すこともありますし、朝礼時に予報を共有して、当日の作業計画を適宜調整しています」(冨山氏)
加えて、夏場の気温が高いときは熱中症対策として1時間に1回はテントでスポーツドリンクを飲むよう休憩を促し、体調不良者がいないか確認しています。冬場には、コンクリート打設の際に生コンクリートが凍害にならないよう、寒いときはシートで囲ってヒーターを使うなど、大雨対策以外にも気象情報が必要になります。

高精度な雨予測をもとに作業内容を決めることで、作業効率アップと工期遅れも防げている
清水建設は「ウェザーニュース for business」を導入したことで、安全対策の強化だけでなく、作業効率がアップし、工期の遅延も抑えられているそうです。また、流域タイムライン(防災行動計画)に取り入れているため、河川工事の発注者にも安心していただけているとのこと。
「雨天による作業の判断を事前にできるようになったことで、無駄な作業を削減できるようになりました。たとえば、雨が降ると盛土の品質は下がり、仮にそのまま作業を続けても、やり直す必要が出てくる場合もあります。そうなると作業効率も落ちるし、コストも余計にかかることになります。事前の予測をもとに工事を中断できるようになったことで、工期の遅延も最小限に抑えることが可能になりました。
それから、河川の増水リスクの予測を水害対応のタイムラインに活用し、適切な防災措置をとれるようにしています。一般的に流域面積が狭い中小河川は、短時間で急激に水位が上昇します。那珂川の場合も、那珂川に注ぎ込む小さな河川が無数にあり、それらをカバーする降雨の予測ができるのは大きいです」(冨山氏)
雨水が流入する地下工事の施工にも気象データ活用の可能性
現在は、河川工事に活用されている「ウェザーニュース for business」ですが、今後はほかの分野にも広がる可能性があると話します。
「地下工事などの場合、突発的な降雨が作業に与える影響は大きいはず。とくに深い場所での作業は、周辺からの雨水流入のリスク回避は必須。予測が可能になれば、事前に対策を立てやすくなり、安全性も向上するでしょう」(冨山氏)
清水建設は今後も気象データに基づく効率的な施工計画と適切な安全管理のもと、出水期の河川工事を進めていきます。