サステナビリティを重視した金融サービスに注力し、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資や再生可能エネルギー分野に積極的に融資している三井住友トラストグループ株式会社(以下、三井住友トラスト)。三井住友トラストでは、2100年までの気候リスクの発生頻度や再現期待値をより高度に分析できる、ウェザーニューズの気候変動リスク分析サービスを導入しています。
銀行では気候リスクの分析結果がどのようにビジネスに活かされているのか、三井住友トラストの塙氏、大西氏にうかがいました。
全国130の太陽光発電所のキャッシュフローへの影響を分析し、TCFDレポートで公表したい
三井住友トラストの気候変動関連の取り組みには歴史があり、1999年に傘下の日興アセットマネジメント株式会社がエコファンドをスタートさせました。2003年には同じく傘下の三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社(当時 住友信託銀行株式会社)がSRIファンドを開発し、ESG投資へ本格参入しています。また、2018年にはいち早く石炭火力発電への融資自粛の方針を明確化するなど、最近は投融資と環境の両面から気候変動問題に取り組んでいます。
「2019年から発行しているTCFDレポートでは、金融機関と気候変動リスクの関係性をわかりやすく示すために、毎年深堀するアセットを決めて、物理的リスクのシナリオ分析をおこなっています」(大西氏)
2023年度は、近年三井住友トラストで取引が拡大している太陽光発電プロジェクトに関するリスク分析を試みるために、ウェザーニューズの分析サービスを活用。
「過去には、浸水被害が住宅ローンビジネスにもたらす影響について分析したこともありました。浸水被害によって住宅が損壊すると修繕費がかかるため、ローンの返済に困る借主が増加することもあります。浸水被害を受けたエリアの資産価値が下がることで、貸付金の回収が困難になる危険性も考えられます。同様に、2023年度は太陽光発電所のエリアによってどのようなリスクがあるのか、気候の切り口でアプローチしたいと考えました」(塙氏)

将来的な土砂災害と積雪によるソーラーパネルの損壊リスクを数値化
今回は、全国の太陽光発電所における土砂災害と積雪による器材損壊の危険性を調査。
「土砂災害を被った場合は、付近のパネルが流されてしまう危険性も視野に入れなくてはなりません。積雪が2mを超えると、雪の重みでソーラーパネルが損壊するリスクが生じます。器材が損壊した場合、ある程度は保険でカバーできる仕組みになっていますが、保険料の値上げなどが起こった結果、ビジネス全体のコストが増加することも懸念していました」(塙氏)

三井住友トラストがファイナンスを提供しているのは、全国で120~130プロジェクト(地点)にものぼります。これらの太陽光発電所の位置情報をもとに、それぞれ2100年までの被災リスクを時系列で分析し、与信関係費用のシミュレーションを行いました。
「太陽光発電所を建設できる広大な場所は限られており、山間部の土地であるケースも少なくありません。積雪や土砂災害が起こりやすいエリアも含まれます。とくに、積雪に関しては大雪の年ほど破損事故が増えるので、将来的にどのくらいビジネスに影響するか注目が集まっていました」(大西氏)
情報開示だけじゃない、未来のデータを活用したプロジェクト推進が可能に
ウェザーニューズの気候モデルを活用したシナリオ分析の結果から、土砂災害において推計される与信関係費用額は、4℃シナリオでも2100年までの累積で4億円程度にとどまり、積雪についても、将来的に器材の耐荷重を超える積雪リスクがある案件は全国で2件、与信関連費用は累積で1.9億円程度にとどまることがわかりました。
「2100年までという長期間でこの規模の金額でしたので、現時点の分析では太陽光発電のプロジェクトファイナンスにとって大きなインパクトを与えるものではないとわかりました。積雪に関しても、豪雪地帯に設置された器材損壊リスクは決して低くはないものの、全体的には地球温暖化により積雪量が減少傾向にあることも把握できました」(塙氏)

「情報開示するためだけの分析とはならず、数値をもとに営業の部署と有意義なディスカッションができるようになったのは画期的なこと。また、これまでは過去の気象データで分析していましたが、これからは『未来のデータを活用しながらプロジェクトを推進していける』という可能性も広がりました」(大西氏)
30年、50年先の気候リスク分析で先手を打ち、企業価値の向上につなげていく
今後は、再生可能エネルギー関連のプロジェクトファイナンスの増大やポートフォリオ(資産の構成)の変化を踏まえた分析の高度化や、グローバルの分析も見据えているといいます。
「地上の太陽光発電だけでなく、洋上の風力発電にもビジネスの広がりを見せていくでしょう。すでに展開している海外の不動産ファイナンスでも、たとえばアメリカではハリケーンや山火事など、日本とは違ったリスクがあります。
また、2100年という長期間での分析が可能になった今、ポートフォリオを組み立てるところからデータを取り入れるというアイデアも出てくるのではないでしょうか」(塙氏)
さまざまな形でレジリエンス力を高め、これから益々高度な開示が求められる時代に先手を打っていく、三井住友トラストグループの取り組みに注目です。
