日本最大級のミニトマト生産拠点を持つ株式会社たねまき常総は、2023年9月よりお天気アプリのビジネス拡張版「ウェザーニュース for business」を導入。環境制御技術などのテクノロジーを駆使した施設園芸の運用に企業専用のアプリを取り入れることで、主力商品のミニトマト『商品名:プリッとトマト』を、高品質で安定的に出荷できるように体制を整えています。
およそ7ヘクタール(東京ドーム約1.5個分)の敷地面積で、年間約1,000トンのミニトマトの収穫が見込まれる次世代型の施設園芸で、アプリをどのように活用しているのか。株式会社たねまき常総 取締役副社長 兼 COO 生産事業部部長の山田直人氏に伺いました。
ゲリラ豪雨による被害を受けて、気象データの重要性を痛感
「施設園芸に求められているのは、量と質ともに1年を通じて安定した出荷を実現させることです」と山田氏は話します。ミニトマトの生育を管理するためには、ハウス内の環境の整備が欠かせません。

「そのため、ハウス内には環境制御装置を導入しています。温度やCO2量などを感知するセンサーからのデータに基づいて、ミニトマトの栽培に最適な環境になるよう、コンピューターが24時間自動でコントロールしています」(山田氏)
夏場はハウス内の換気や熱を抜くために、天窓を開放していることも多く、2023年夏はゲリラ豪雨により雨が吹き込むこともあったといいます。
「弊社では、昨年よりオランダの最先端ハウスを導入しております。実証栽培時に使用をしていた国産のハウスに比べ、天窓の開度が広いのが特徴です。雨量計が雨を観測すると、ハウスの天窓が自動で閉まるシステムになっていますが、完全に閉まるまでに時間がかかります。通常の雨ならば問題ないのですが、ゲリラ豪雨の場合はそれだと遅いのです。突発的な大量の降雨によって、昨年はハウス内に雨が吹き込むこともありました。
突然の気象変化にも迅速に対応するためには精度の高い気象情報が不可欠です。私は以前からウェザーニュースの個人会員で予報精度は信頼していましたし、知名度もあるので「ウェザーニュース for business」であれば安心して使えるのではないかと考え、導入を決めました」(山田氏)

カスタマイズできるアラート通知で、突然の気象変化にも事前準備が可能に
「ゲリラ豪雨の安全対策には、雷雨のアラート通知や雨雲レーダーを活用しています。リスクがある場合は、発生の30分前までにスマホに通知されるので、雨雲レーダーで動きを詳細に確認します。また、30mm/hの豪雨が予測される場合にも通知されるように設定しています。
これにより降雨対策準備までの時間のロスを減らし、ハウス内への雨水の侵入を防止することにつながりました」(山田氏)

こうしたプッシュ通知機能をハウス内の環境に合わせてカスタマイズできることも、魅力だといいます。
「雨の他にも、気温などの予報が閾値(しきいち)を超えたときに通知されるように設定できるので、冬季はハウス内の配管の凍結を防ぐために、気温が-3℃を下回ると低温のアラート通知が届くように設定しています」(山田氏)

導入後もゲリラ豪雨や台風を経験したが、ハウスへの被害ゼロ化に成功
ゲリラ豪雨や凍結のような気象リスクに迅速かつ適切に対応するには、情報の非対称性を解消することもポイントだったといいます。
「かつては、ミニトマト栽培に携わるスタッフが、それぞれ異なる気象情報を確認していたため、突然の気象変化への対応に時間差が生じることもありました。『ウェザーニュース for business』の導入後は、スタッフ全員がアプリから同じ情報を共有しているので、スピード感を持って適切に対応できています。
例えば、近くにある調整池の溢水を防ぐために、20~30mm/hの雨が2時間続く場合や、24時間積算降水量が100mmを超える場合は、ハウスの入り口に土嚢(どのう)を置くなど大がかりな対策を講じる必要があるため、適切な判断と迅速な対応が不可欠です。導入以降もいくつかのゲリラ豪雨や台風を経験しましたが、被害は一度もありません」(山田氏)

作業スケジュールを調整できるだけでなく、スタッフの安全を最優先した判断を後押し
たねまき常総では、ハウスの台風対策やスタッフの通勤時などの安全管理にも気象データを役立てています。
「台風の接近前には、影響レベルによってハウス周辺の資材を片付けるべきか判断する必要があります。そんなとき、『ウェザーニュース for business』のアプリで、気象庁・ウェザーニューズ・米軍の3本の台風の進路予測モデルが見られることで、安全を最優先した判断を後押ししてくれます。
また、スタッフの通勤に直結する冬場の路面凍結情報も大切です。凍結で出勤が困難な状況でも、お客様へのミニトマトの出荷を遅らせることはできません。出勤状況を事前に把握することで、スタッフの安全確保以外にも、作業スケジュールの調整などをおこなえるようになりました」(山田氏)
加えて、栽培計画や収穫量の予測にも気象データは欠かせません。
「適度な気温や湿度の環境で栽培しないと、ミニトマトはすぐに病気やカビ、過熟や実割れといった生理障害が起きてしまいます。通年で高品質なミニトマトを安定出荷するためには、気象の変化に合わせてハウス内の環境を適切にコントロールする必要があるのです。
かつては、多少の収量のばらつきが生じていましたが、現在は計画通りにきっちり出せる確率が高まっています」(山田氏)

勘や経験に頼る農業から脱却し、データドリブンな農業に挑戦し続けたい
「持続可能な農業を実現するためにも、これまでの勘や経験に頼る農業から脱却し、栽培に関するデータや気象データを掛け合わせて有効な施策を立案していきたいですね」(山田氏)
農林水産省の発表によれば、2022年の農林水産関係の自然災害による被害額は2,401億円。深刻化する自然災害による農作物へのダメージに歯止めをかけるため、株式会社たねまき常総のデータドリブンな農業への挑戦は続きます。