建設や土木の専門技術を軸に、災害現場の復旧工事やインフラ整備に携わるタイトレック株式会社では気象情報を活用して、作業員の命を守るための熱中症対策や3D技術と連携した復旧工事の最適化に取り組んでいます。企業向けの気象情報「ウェザーニュース for business」に加えて、協業関係にある東京海上レジリエンス株式会社から高性能気象IoTセンサー「ソラテナPro」をレンタルしてどのように活用しているのか。インフラ業界に新たな可能性を示す先進的な取り組みについて、株式会社タイトレック 代表取締役社長 山口孝人氏にお聞きしました。
激甚化する自然災害に備えて、経験と勘から気象データに基づいた判断へ
2011年の東日本大震災や2021年に熱海市伊豆山で発生した土石流災害など、これまで数々の復旧現場や高速道路建設といった大規模プロジェクトに携わっていたタイトレックは、これまで現場作業が天候に大きく左右されてきた背景から、日常的に天気を気にしていました。
「以前は現場責任者が天気予報を確認しながらも、経験や勘に頼った判断が中心となっていましたが、昨今災害の頻発化や激甚化が進むなかで、データに基づく一元管理の必要性を痛感し、ウェザーニューズの気象サービスを活用することにしました」(山口氏)

ソラテナProの『暑さ指数アラーム』×AIカメラで作業員の熱中症チェックを万全に
現在、タイトレックは九州や中国地方など西日本の10拠点に高性能気象IoTセンサー「ソラテナPro」を設置。気温、湿度、雨量、風速などの1分ごとの数値をリアルタイムに現場で活用するとともに、設置からこれまでに蓄積されている観測データを分析して対策に活かしています。
なかでも、2025年6月から熱中症対策が義務化されたこともあり、熱中症リスクを迅速に把握する一助として「ソラテナPro」と暑熱対策AIカメラを組み合わせた熱中症対策に力を入れています。「ソラテナPro」には、観測された気温や湿度、風速などをもとに、環境省が示すWBGTの計算式を用いて「暑さ指数(熱中症リスク)」を算出し、リスクが高い場合にアプリのプッシュ通知やメールで「暑さ指数アラーム」を送信する機能が備わっており、タイトレックではこの機能をトリガーに対策を実施。


具体的には、まず朝礼時に顔色・表情・発汗といった顔の変化を感知する暑熱対策AIカメラを用いて緑・黄・橙・赤色の4段階で判定。毎朝作業員の体調を見える化し、体調不良の場合は作業を控えてもらいます。また、工事現場周辺に設置された「ソラテナPro」で熱中症の警戒基準(暑さ指数(WBGT値)28℃以上、気温31℃以上)を超えると、現場責任者に「暑さ指数アラーム」が届くようにしています。
プッシュ通知を受けとった責任者は、作業員に暑熱対策AIカメラで体調をチェックするように促し、熱中症のおそれがある場合には作業の離脱を指示し、マニュアルに沿って水分摂取や医療機関への搬送などの処置を行います。また、現場によってはトラックにコンテナハウスを載せたクーリングハウスを持っていき、調子が悪いときにはエアコンで涼んでもらえるような環境も用意しています。


「気象データを活用しつつ問診も併用するというダブルチェック体制により、客観的かつ早期に体調不良者を発見できるようになりました。現場の作業員も『赤だから休みます』などと遠慮なく休憩を申告できるようになり、働きやすさや安心感が増幅しているという声も聞いています」(山口氏)
実際、導入後は約200人の大規模工事現場にて炎天下で作業をしていても、タイトレックでは一件の重大インシデントも発生していないとのこと。同じ現場で他社では熱中症患者が相次いでいることから、熱中症リスクを大幅に軽減できていることを実感しているといいます。
観測データ×天気予報で労働安全衛生法を遵守し、現場の安全も工期も守る
タイトレックでは、「ソラテナPro」の風速の観測データをもとにクレーン作業の中止判断を行うなど、労働安全衛生法に準拠した運用を徹底しているといいます。
また、「ウェザーニュース for business」で雨雲レーダーや落雷情報、拠点の天気予報、線状降水帯、河川水位、天気図など、様々なコンテンツを確認しながら作業計画を立案することで、工期遅延のリスクも最小化できているそうです。特に2024年の台風10号のときは企業向けの台風の進路予測を活用し、九州の港湾施設の工事における迅速な作業判断につながったと話します。
「当社では、台風が通過した後の被害状況の確認や点検業務を請け負っていたりします。台風の予想進路をより正確に把握できることで、通過直後に点検が必要そうな場所を事前に想定することが可能になりました。効率的かつ安全に作業が行えるようになり、従来よりも早く現場再開の判断もできました」(山口氏)


3D技術と気象データでインフラを支え、建設業界に「命を守るスタンダード」を築きたい
タイトレックは3Dプリンタによる施工計画の見える化で、災害現場における安全かつ正確な復旧工事を可能にしています。2016年に福岡市で発生した道路陥没事故では、3Dスキャナーやドローンで取得した地形データを3Dプリンターで出力して、復旧工事をスピーディーに進められるような支援を行いました。復旧工事はわずか1週間程度で完了されたとのこと。
「弊社ならではの技術に気象データを掛け合わせることで、地域ごとの天候の傾向を反映した施工計画や安全対策に関わるコストの最適化も進んでいます」(山口氏)
タイトレックの複合的な取り組みは安全管理や工期遵守に役立つだけでなく、これからの建設業界全体に「命を守るスタンダード」として影響を与えていくことでしょう。