パソコンやスマートフォン、自動車や駅の改札機など、私たちの身のまわりの家電から最先端の情報通信機器まで幅広く使用されている緑色の基板をご存知でしょうか。プリント配線板と呼ばれるもので、日本シイエムケイでは1961年の創業から50年以上にわたって自動車分野に強みを持つプリント配線板を製造。日本国内のほか、中国やタイにも生産拠点を有するプリント配線板のリーディングカンパニーです。
日本シイエムケイは、工場への落雷や電圧低下のリスクを事前に把握するために、企業向けの気象情報「ウェザーニュース for business」を導入しています。工場における落雷の影響や活用方法について、日本シイエムケイ株式会社 新潟設備課 課長 濱崎将史氏にお聞きしました。
新潟は冬場が停電のピーク、製造工場では一瞬の停電でも大きな被害額に
日本シイエムケイの製造拠点は新潟県内に新潟工場と蒲原工場の2か所あり、近年は冬の落雷対策が大きな課題となっていました。
「とくに12~1月は落雷が多いです。豪雪地帯の新潟では『雪おろしの雷』と呼ばれる現象があり、雪が降る前兆として雷が頻発します。工場に直撃しなくても、送電線に落雷して瞬時電圧低下(瞬低)が年に何度か発生して、瞬低が発生しただけで不良品が生じることもあります」(濱崎氏)

日本シイエムケイ株式会社が生産するプリント配線板は、総面積にして年間400万㎡(東京ドーム85個分)、総売上の約88%は自動車に搭載されています。プリント配線板を製造する過程で工場に停電が生じると、製造ラインがストップして材料の再準備に時間がかかったり、品質が基準を満たさなかったりするといいます。
「落雷の影響は、そのままコストや納期にも直結します。不良品の廃棄や工場内の各装置の復旧、更に納期にかかる費用も考慮しなくてはなりません。1回の瞬低で数百万を超える損失になるリスクもあるのです。毎年のことなので諦めていたところがありましたが、近年では高付加価値の製品が増加し、被害額が大きくなってきて本格的な対策が必要になりました」(濱崎氏)

瞬低データ解析に基づく落雷アラートで雷接近を瞬時に把握、リスク管理を低コストで実現
事前の予測が難しいことも、頭を悩ませる原因になっていたといいます。
「これまでは、それぞれがネットで雷注意報を見ていたものの、経験や感覚に頼ることがほとんどで、正確な落雷対策をとるのが難しかったです。『製造ラインを止めると費用がかかる』『一度止めると再稼働まで時間がかかる』などのリスクを考慮しながらも、落雷に間に合わず瞬低被害が起こってしまっては元も子もないので、的確な判断材料が求められました」(濱崎氏)
そこで、課題解決のために「ウェザーニュース for business」を導入し、現在は冬場だけでなく夏場にも落雷アラートを活用。落雷データの正確さと費用対効果が良かったとのこと。

「日本シイエムケイの瞬低発生データとウェザーニューズ社から提供された落雷発生データを組み合わせて解析することで、どこに落ちるとどの程度の影響があるか、落雷位置による瞬低発生確率を導き出すことができたため、正式に導入にいたることにしました。
ほかにも無停電電源装置(UPS)のような大規模な設備投資をするという案もありましたが、安価な費用でリスク管理ができるという点で『ウェザーニュース for business』が弊社にとって最適な選択肢となりました」(濱崎氏)

自然災害に対する従業員の意識が大きく変化、停電対策までの判断スピードも向上
現在は新潟工場と蒲原工場で運用。『ウェザーニュース for business』アプリをダウンロードしたスマートフォンを責任者20名ほどに配布し、スマートフォンやパソコンで確認しています。
「基本的には5㎞以内に落雷があると『注意』の通知が飛ぶので、瞬低対策の準備に取り掛かります。3㎞以内まで近づくと『警戒』で、工場の該当装置を止めるようにします。落雷アラートを受信したら、落雷レーダーと雨雲レーダーで落雷が発生している場所や今後の雷雲の動きを確認することも欠かしません」(濱崎氏)
社内でアプリを活用したところ、落雷リスクを大幅に軽減することができただけなく、従業員の意識変革が起こったそうです。
「まずなにより瞬低による損害を未然に防止できるようになりました。情報の供給先がひとつになったことで、製造工場を稼働させるか否かの判断スピードも大幅に迅速化しました。
瞬低は年に5、6回ほど起きている感覚で、そのうち1、2回は被害がありました。以前から起こっていたので、私たち従業員のなかに『自然災害は防ぐことができないから、それによる損害が発生するのは仕方ない』という思いもあったかもしれません。導入後は一転し、『自然災害の発生はコントロールできないが、確実な予測ができれば自分たちが打つべき対策はある』と変わり、リスク管理への意識が定着してきた印象があります」(濱崎氏)

今後は工場のBCP対策や従業員の安全対策への気象データ活用も見据える
今後の課題として、誰でも落雷データを使いこなせるようマニュアルにしたいといいます。また、落雷以外の気象要素もあわせて、BCPの強化や従業員の安全対策に活かしていきたいと話します。
「警戒圏内まで雷が発生していても、雨雲の向きや発雷している位置によってはしばらく様子を見ることもあります。今後はデータやノウハウを蓄積して、責任者が変わってもスムーズに対応できるようにしていきたいです。
それから工場のある地域を含め、新潟県は線状降水帯が発生して土砂崩れのリスクがあるところも少なくありません。従業員が安心して働けるように、気象データを出退勤の判断や安否確認のトリガーとして活用してもらえたらいいですね」(濱崎氏)
雷は自然現象だから仕方ないと諦めずに、気象データを活用して工場特有の落雷問題に立ち向かう日本シイエムケイに今後も注目です。
