創業90周年の歴史を持ち、電気計測器を通じて世界の産業を支える日置電機株式会社。1986年からサステナビリティ活動に取り組んできた同社は、2019年の千曲川決壊でリスク把握の重要性を再認識しました。2022年にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)賛同を機に、高度なシナリオ分析を行うため、ウェザーニューズの気候変動リスク分析サービスを導入。分析結果の活用方法について、日置電機株式会社 総務本部 経営企画部 水出博司氏と竹内美香子氏にお聞きしました。
千曲川決壊で浸水リスクの定量把握の重要性を痛感。サステナビリティ経営に不可欠な気候変動のシナリオ分析に取り組む
長野県上田市に本社のある日置電機株式会社は、1986年の理念制定から40年ほどサステナビリティ活動を続けてきました。最近では、和歌山県白浜町の中高生と連携し、CO2吸収源としても注目されるアマモの藻場を再生する「海の森プロジェクト」に注力するなど、地域社会と深く結びついた環境保護活動を進めています。
こうした現場に根差した草の根の活動を大切にする一方で、グローバルに展開するプライム企業として、気候変動が経営に与える影響を分析する視点も欠かせません。リスク把握の決定打となったのは、2019年台風19号による浸水の実体験でした。
「当時は千曲川の堤防決壊などで、地域に甚大な被害が出ました。幸い当社への大きな被害はなかったものの、地域の被災を目の当たりにし、気候変動による浸水のリスクを定量的に把握する必要性を痛感しました」(竹内氏)
近年は気候変動リスクの情報開示が国際的に注目されています。投資家や金融機関は、企業を評価する際に「どのように気候リスクを把握し、備えているか」を重視する傾向がみられます。
また、TCFD対応において「専門性の高いエビデンス」が必要不可欠であったことも大きな理由です。
「プライム企業として、シナリオ分析の開示には数値に基づいた客観的なデータが求められます。自社で一から分析するのは限界があるため、専門的な気候データを持つウェザーニューズの力を借りることにしました」(水出氏)
将来的な浸水による財務影響額は低いと判明、事業継続の妥当性を示す重要な根拠に
日置電機がまず着目したのは、洪水や豪雨災害による浸水リスクです。企業活動に直接的な打撃を与えるこのリスクを把握するため、「ウェザーニュース for business」の気候変動リスク分析サービスを活用し、国内外の自社拠点の将来的なリスクを分析しました。

このサービスでは、数十年先を見据えた将来の気候シナリオに基づき、台風や洪水など突発的な気象災害による「急性リスク」と水ストレスや干ばつ、年間降水量など長期的な環境変化が引き起こす「慢性リスク」の両面から、拠点ごとの影響を可視化することができます。


「将来の気候シナリオに基づき、本社や国内外の拠点における浸水被害のリスクを算出しました。その結果、当社の拠点における財務影響額は、他社の平均リスクに比べて低い水準であることが判明しました。この客観的な検証結果は、当社の事業継続の妥当性を示す重要な根拠となっています」(水出氏)
このようにして得られたエビデンスは、統合報告書や有価証券報告書などに、同社の気候変動対応を裏付ける「信頼の証」として掲載されています。
第三者評価で投資家の信頼を向上、専門的な気候データで詳細な開示が可能に
分析結果を開示したことで、投資家や金融機関からの信頼を高める大きな一助になったと日置電機は振り返ります。
「開示にあたっては、単に義務を果たすだけでなく、当社の姿勢を明確に伝えることが大切だと考えました。外部データをもとにした客観的な評価を提示できている点は、投資家のみなさんにとって大きな安心材料になったのではないでしょうか」(水出氏)
また、見せ方についても、経営層や投資家にとっても理解しやすい形でまとめられたとのこと。
「自社のグラフだけでは、そのリスクがどれほど深刻なのか、経営層や投資家にとっても危機感が伝わりにくいと考えました。そこで、地形や都市インフラの異なる別の地域との比較データを盛り込み、当社のリスクの位置づけを立体的に理解できるよう、ウェザーニューズにデータの見せ方をリクエストしました」(竹内氏)

「他社のコンサルティングサービスなどと比べてもコストが低く、導入から開示までの工数も少なく済みました。精度の高いデータを効率的に得られたことで、質の高い情報開示が実現できたと感じています」(竹内氏)
水害リスクが懸念される海外拠点での展開も視野に、気候変動リスク分析をグローバルな経営判断の指標へ
今後は気候変動リスクの懸念が大きい国内外の拠点での詳細分析も進めていきたいと話します。
「とくにタイやベトナムなど東南アジアの拠点では、洪水や台風などの水害リスクがつねに懸念されています。これらの地域の気候リスクを数値で把握できれば、より確実で実効性のある対策を打てるはずです。今後は海外で新しい拠点を新設したり、移転したりする際にも気候変動リスク分析は必要な判断基準になるのではないでしょうか」(水出氏)
長い歴史を持ち、地域社会とともに歩んできた日置電機の姿勢は、気候変動リスクへの対応にも一貫して表れています。地球の未来を守るために、今のリスクを正しく知ろうとする同社の姿勢は、サステナビリティ経営を実践する企業にとって、一つの道しるべとなりそうです。

























