世界中に製品を届けるキッコーマンにとって、異常気象はもはや想定外では済まされない経営課題となっています。同社は今、洪水や高潮が事業に与える影響を「財務影響額」として算出し、具体的なアクションにつなげて、グループ全体のレジリエンス強化を加速させています。 その戦略は、中長期的な将来の気候変動リスク分析にとどまりません。BCP対策や物流現場の最適化、工場の水源特定から森林保全まで、データを具体的な対策に昇華させる同社の多角的なアプローチについて、環境部の香西陽一郎氏と澤邉元哉氏に伺いました。
気候変動の影響による洪水&渇水の「財務影響額」を算出し、止水板やポンプの準備でBCPを強化
世界的に異常気象が頻発するなか、キッコーマンの国内外生産拠点において気候変動が事業に与える影響を「定量的」に把握する必要性がありました。これは、同社が「グローバルビジョン2030」で掲げる、「地球社会への貢献と企業価値向上を両立させる」という方針に直結する課題です。

「気候変動が進んだ場合に、各製造拠点でどんなリスクがあるのか、改めて評価し直そうと考えました。洪水や高潮の“浸水の深さ”や“発生頻度”をもとに、ウェザーニューズの気候変動リスク分析サービスで財務インパクトを年間影響額として算出してもらいました。この定量的な分析によって、各拠点のリスクが明確になり、BCP上の優先順位づけができるようになりました」(香西氏)


結果をもとに、ハード面では洪水リスクに備えた止水板やポンプの設置、フロアレベルの引き上げを推進。一方、ソフト面では「ウェザーニュース for business」を導入し、有事の際の迅速な意思決定に活用しています。
さらに、分析結果とあわせてTCFD提言にもとづく情報開示などにも活用し、ステークホルダーへの説得力のある説明を実現しています。
物流現場の「今」を支える交通影響予測、ルート調整の迅速化で安定供給を実現
また、将来のリスクを見据えるだけでなく、現場の「今」を支える迅速な意思決定にも、「ウェザーニュース for business」が活かされています。
商品を配送する物流部門にとって、台風や大雪といった気象状況は、配送ルートの変更や遅延判断を左右する最大の要因です。以前は担当者が複数のサイトを確認して状況を判断していたところを、現在は「ウェザーニュース for business」で情報を一元化。「交通影響予測」で道路の通行止めリスクをマップで確認。本社と全国の物流拠点で、同じ情報をリアルタイムに共有できる体制を整えています。

「情報収集の作業が効率化されたことで、配送ルートの調整や判断のスピードが上がりました。ほぼ毎日稼働する物流において、精度の高い気象情報は欠かせない判断材料になっています。これからも、安定供給を支える日常オペレーションの質を、さらに向上させていきたいですね」(澤邉氏)
しょうゆ工場の水源を特定して、水を守る森林保全活動を展開
キッコーマンは千葉県野田市に主要な生産工場を構えており、地下水を多く使用しているそうです。創業当時から水質管理を徹底し、自社で浄水処理設備を備えて、地域に水を供給してきた歴史もあるといいます。

グループ全体としても水環境の保全に積極的に取り組んでおり(※)、これからも、しょうゆ造りの生命線である「水」を将来にわたって守り抜く姿勢に変わりはありません。
「自社で使う地下水はどこから来るのか。水使用量の削減や排水管理にとどまらず、水源そのものを科学的に理解し、事業と結びついた形で保全につなげたいと考えました」(香西氏)
ウェザーニューズが地下水解析手法を用いて水源を調査したところ、野田工場で使用されている地下水の多くは野田市内に由来しているなかで、一部は茨城県桜川市の筑波山西側に由来していることが明らかになりました。

キッコーマンは、筑波山周辺の森林保全と水源涵養に貢献するため、2025年6月に桜川市役所や地域住民、専門家らと共に「桜川ヤマザクラの森整備活用推進協議会」の設立からメンバーとして参画し、ヤマザクラの植樹などの活動を進めるための寄付を行いました。

具体的な活動として、2025年11月に草刈りなどヤマザクラの植樹に向けた活動を実施。2026年2月には、地元の小学生とその父兄も参加し、桜川市内の小学校で育てたヤマザクラの苗木を、健やかに育つようにと願いをこめて植樹したそうです。
「水源が科学的に特定されたからこそ、自社事業とつながった水源涵養という納得感のある活動が実現できたと思っています。ウェザーニューズの調査結果で、水源の将来的な『枯渇リスク』はほぼないことも判明し、長期的な安心材料にもなっています」(香西氏)
今後もビジネスにつながる環境保全活動を実施、グローバル拠点まで気候変動リスク分析を広げたい
今後は、海外の卸売事業拠点を含めた気候変動リスク分析の拡大や、世界各地の拠点を俯瞰したリスク管理も視野に入れていきたいと話します。また、水源涵養の取り組みについても、他の水源地に展開していくことを検討しているといいます。
「水と共に事業を育んできた企業だからこそ、環境と経営をつなぐことができるのだと考えています。今後も環境保全と事業活動を結びつけ、変化する時代や環境下でのレジリエンスをさらに強化していきたいですね」(香西氏)
気象データの分析や結果の開示だけで終わらせず、具体的なアクションにまでつなげているキッコーマン。サステナブルな未来に向けた挑戦はまだまだ続いていきます。

























