京都の嵐山にある「星のや京都」は、星野リゾートが展開する全室リバービューの高級旅館。「水辺の私邸」をコンセプトとしたこちらの宿は渡月橋より専用の船でご案内していることから、荒天時の船の運航や旅館の休館判断に企業専用のお天気アプリ「ウェザーニュースfor business」を導入しています。
ホテルの円滑な運営や安全対策に気象情報がどのように役立てられているか、星のや京都 総支配人 木村氏、施設広報 保園氏、アシスタントユニットディレクター 越智氏にお聞きしました。
10年前に桂川氾濫による浸水被害で休業に、大雨やダム放流で河川水位が急上昇しやすい立地で、プロの予報が必須
「星のや京都」は嵐山に流れる桂川沿いに立地し、周囲は山々や竹林に囲まれた自然美を堪能できるロケーションで、多いときで月1200人が滞在する人気旅館です。宿泊客は嵐山市街の渡月橋のたもとにある船着場から、専用の船に乗船して約10~15分上流へ進み、川面の景色を楽しみながら宿へと向かいます。

「船による送迎は、春は桜、秋は紅葉など四季の変化を楽しんでいただけるのですが、その一方で、大雨など荒天時には川の増水によるリスクが生じるのも事実です。とくに、桂川の上流にある日吉ダムが放流をおこなうと、一気に水位が上がります。川が増水してしまうと、宿泊客やスタッフの安全確保を最優先し、休業判断を余儀なく迫られることになります」(木村氏)


「10年前には台風の影響で渡月橋が浸水したことがあります。半年ほど休業を余儀なくされ、それだけ自然の脅威と隣り合わせの場所になります。開業して十数年経っており、経験を形式知化したいと思っていました」(木村氏)
「水路が使えない場合には、普段からスタッフが利用する近くの参道からご案内するのですが、川の水位上昇により参道が浸水することもよくあります」(越智氏)

これまでは、一般向けのウェザーニュースアプリで旅館周辺や川の上流の雨量を確認したり、ダム管理会社に電話で問い合わせたりして、経験をもとに休業や船の運休を判断していたといいます。
「ただ、特定のスタッフに依存していたため、スタッフ間での情報共有も時間がかかり、効率性が課題となっていました」(保園氏)
そこで、旅館の休館判断と船の運航可否を迅速かつ効率的に判断するため、2023年10月より企業専用の「ウェザーニュースfor business」を試験的に利用し、同年12月より正式に導入しました。

川の上流を中心に5地点の気象データを一括管理、船頭がリアルタイムに確認し操船の安全性を確保
星のや京都では様々なシーンで「ウェザーニュースfor business」が活躍していますが、特に船の運航可否の判断に必要な降水量や風速などのリアルタイムの気象情報の確認に役立っています。
「過去の事例をもとに閾値を出してもらっており、基準値を超えた場合には自動的にプッシュ通知が送られる仕組みです。水位の変化には時差があるので、川の上流を中心とした5地点の気象データを監視します。6時間先までの降水量の変化や72時間先までの予測もチェックします」(木村氏)
「風速も船での送迎に大きく関わる気象要素。船のサイズや川幅の広さ、暗礁の多い地帯のある川底の状態を考慮して、風の影響を受けるリスクがあるか確認。安全に操船するために、原則は風速5m/sを超えると運航中止にしています」(越智氏)

他にも、日常的なオペレーションで使われています。現在は、マネジメントに携わるスタッフや船の運航にかかわるスタッフ、フロントスタッフなどを中心に30アカウントを利用しています。
「たとえば、プッシュ通知をきっかけに、お客さまへの傘やタオルの準備、屋外に設置しているものの館内への移動、停泊する船を安全な場所に引き上げる作業を行うなど、さまざまなポジションで必要なオペレーションを迅速におこなっています」(保園氏)
また、星のや京都で働く約100名のスタッフ間の情報共有がスムーズになった点でも重宝しています。これまでは属人化していた判断や気象データの分析が、「ウェザーニュースfor business」の導入によってリアルタイムに多くのスタッフに共有されるようになり、誰もが同じ情報に基づいて意思決定できる体制が整いました。


スタッフの経験に頼らざるを得なかった休館判断のスピードが大幅アップ、欠航を少なくすることで顧客満足度も向上
アプリを導入してみて休館判断の効率化を実感しているそうです。実際に2024年5月には大雨が降ったことで、陸路のアクセスとして重要な参道が一時的に水没するという事態が発生したが、精度の高い予報とプッシュ通知のおかげで迅速に対応できたといいます。
「以前は、経験豊富な特定のスタッフに頼らざるを得なかった休館判断が、データにもとづいた客観的な判断に変わったことで、効率とスピード感が大幅に向上しました」(木村氏)
加えて、明確なデータはサービスの品質向上の一助にもなっているとのこと。
「船に乗ることを楽しみにしているお客さまはとても多いのですが、『10分後には風が弱まる予報です』『データ上では15分後には雨がやむようです』といった明確なデータがあることで、出航時刻にも幅を持たせることができるようになりました。欠航にせず、少しの時間船着場でお待ちいただく判断ができるようになったことで、宿泊客のみなさまの満足度を高めることにもつながっているのではないでしょうか」(木村氏)

旅館の安全対策に特化した、より効率的な気象リスク管理ツールの実現に期待
いまはフロントや船着場のスタッフで情報を共有していますが、他人任せではなく、現場の一人ひとりが気を配り、知見を持てるようになることを目指して、今後はさらに多くのスタッフで活用していきます。
「より活用度を高めるため、『ウェザーニュース for business』は企業のニーズに合わせてカスタマイズできるという利点があるので、ダムの放水状況や河川の水位情報なども『ウェザーニュースfor business』のシステム内で一括管理し、より効率的なオペレーションツールになるものを一緒に作っていけたらいいとも思っています」(越智氏)

「旅を楽しくする」をテーマに、「星のや」をはじめ「界」「リゾナーレ」「OMO」「BEB」など5ブランド、国内外73施設を有する星野リゾートでは、「星のや京都」だけでなくほかの施設でも「ウェザーニュースfor business」を導入し、気象リスク管理の強化を進めていくことができたら理想的ではないか、と語ります。
