気候変動が海の生態系や漁業資源に及ぼす影響を、科学的に可視化する。水産業の未来を左右するこの難題に、Umiosはウェザーニューズの気候変動リスク分析サービスを活用し、正面から挑んでいます。
世界でも前例のない「水産資源量の変動を定量的に算出し、財務影響額としてTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)へ開示する」という取り組みについて、Umios株式会社 サステナビリティ戦略部 サステナビリティ推進課 山口俊彦氏にお話を伺いました。
水産資源の減少が最大の経営リスクであるにもかかわらず、世界のどこを探しても定量的なデータがなかった
Umiosは、2023年にもTCFD提言に基づくシナリオ分析を行いましたが、当時は気候変動による水産資源への影響に関する公開情報がなかったといいます。 当時、工場の洪水・浸水リスクについては、既存モデルの活用により『2か月稼働が停止した場合の財務影響』などのシミュレーションを行っていました。一方、水産資源は海水温や生息域の変動といった複雑な変数が絡みます。
そのため、将来どのように変化し、どれほどの財務インパクトをもたらすのかを定量的に示すデータや精緻なシミュレーション手法は世界中どこを探してもありませんでした。水産資源は、私たちの主要取扱品目であるため、将来の予測を定量的に測る信頼性の高い情報がどうしても必要でした」(山口氏)
そんな折、転機となったのが展示会でのウェザーニューズとの出会いでした。水産資源の将来予測シミュレーションの技術を持っていることを知り、サステナビリティ戦略部はすぐに動き出します。
「正直なところ、最初は『本当にそんな予測が可能なのか?』と半信半疑でした。将来の資源予測には考慮すべき要素が多すぎますし、あまりに専門的な領域です。ただ、前例がないからと諦めるのではなく、ウェザーニューズさんの科学的なアプローチを信じて、まずはやってみることにしました」(山口氏)
膨大なデータの分析からスケソウダラの財務影響額を算出
分析の対象としたのは、Umiosの基幹事業であるアラスカ産の「スケソウダラ(すり身の原料)」と、養殖魚の飼料などに使われるペルー沖の「カタクチイワシ」の2魚種。ウェザーニューズが提供する気候データをもとに、国際研究プロジェクト「ISIMIP」のシナリオを採用し、RCP2.6(2℃未満上昇)とRCP8.5(4℃上昇)の2つのパターンで、「2030年と2050年の海面水温の変化」や「スケソウダラとカタクチイワシの資源量の変化」を比較しました。
「世界中の海域をカバーするデータから、特定の魚種への影響をシミュレーションする。これはウェザーニューズさんにとっても初めての挑戦であり、例えるなら、まだ誰も扱ったことのない大きな『丸の魚』を、どう料理すればいいのか一緒に悩むような状態です。将来の資源量や海面水温の予測をもとに、実際の調達リスクへ落とし込んでいくため、ウェザーニューズの方々と何度もレクチャーや議論を重ね、手探りで分析を進めました。
最終的に、単に水産資源の増減を見るだけでなく、魚体サイズを3段階(30cm未満、30〜90cm、90cm以上)にわける“BOATSのモデル”を採用し、魚のサイズ別にカーボン量を算出するなど複数のシナリオを検証しながら、より現実的な予測へと近づける分析を試みました」(山口氏)
分析の結果、4℃シナリオ(RCP8.5)における2050年までの局所的な水温上昇は+1.1℃、スケソウダラの資源量は約13%減少。当社への財務影響額(概算)として、60億円の売上減少という定量的な結果が導き出されました。

一方、米国アラスカの漁業管理基準は、生物学的許容漁獲量よりも大幅に低い漁獲枠が設定されているため、「4℃シナリオ(RCP8.5)のとおり資源量が減った場合でも、漁獲枠にはなお十分な余裕があり、当社の調達量への影響は低い」という、客観的かつ解像度の高いシナリオが見えてきました。この内容は2025年の統合報告書でも開示されています。

リアルな開示は「リスク」ではなく「調達の持続可能性の証明」になった
ネガティブな数字も含めたリアルな財務影響の開示。前例がないだけに、社内外の反応には緊張感があったと山口氏は振り返ります。
「開示後の反応が心配でしたが、蓋を開けてみると、グローバルな水産メディアで『非常に興味深い取り組みだ』と取り上げられ、欧州のグループ会社からも問い合わせが来るなど、私たちが想像していた以上にポジティブな反響を呼びました。
社内でも『当社の調達の持続可能性を裏付ける素晴らしい分析だ』と太鼓判を押してもらえました。自然資本の保全と持続的な利用が、企業価値向上の観点で極めて重要な要素であるなか、科学的な根拠をもって開示したことが、結果として顧客やステークホルダーへの『安心感』へとつながった。これは非常に大きな効果でした」(山口氏)
同業他社からも「ここまですすんだ開示をされたんですね」と声をかけられるなど、業界内でのUmiosの先駆的な立ち位置を示す機会にもなったそうです。
気候変動で激変する海のデータ分析で新たな挑戦と共創へ。「Umios」として歩み出す、未来への一歩
これまでサステナビリティ部門だけで進めていた取り組みが、今後は事業部門も巻き込む“共創の動き”へと変わっていくのではないか、と将来を見据えています。
「今回はスケソウダラとカタクチイワシに絞りましたが、当社が扱う魚は70カ国・360魚種にのぼります。今後は他魚種・他海域にも分析を拡大していくことも考えています。海水温の上昇だけでなく、黒潮の蛇行や磯焼け(藻場の減少)など、日本の海を取り巻く環境は激変しています。このリスク分析を事業の持続可能性を見極める基礎データにしたいと思っています」(山口氏)

2026年にマルハニチロから「Umios(ウミオス)」へと社名変更したことも、同社の挑戦を象徴しています。
「従来の水産会社の枠を超えて、食を通じて地球規模の社会課題を解決するグローバルなソリューションカンパニーへと生まれ変わるために社名が変化しました。Umiosには、“挑戦と共創”という理念のもと、海(Umi)の課題を解決するソリューション(Solution)を提供し、ステークホルダーや地球と一体(One)となっていくという意味が込められています。今回のウェザーニューズさんとの気候影響分析の試みは、その象徴的な一歩になったのではないでしょうか」(山口氏)
将来の気候変動の影響を「危惧すべき結果」ではなく「持続可能な体制を整えていく理由」としてとらえることに成功したUmios。データを武器に、海の未来を次の世代へとつなぐ挑戦は、ここから広がっていきます。
(※2026年3月時点の情報をもとに作成されています)



























