2026年の夏、日本では各地で厳しい暑さとなり、7月から8月にかけて最高気温40℃以上の「酷暑日」も観測されました。企業の現場でも、熱中症対策や作業時間の見直しなど、暑さへの対応を迫られた場面は少なくありませんでした。
この夏の暑さを振り返ると、企業が考えるべきリスクは熱中症だけではないことが見えてきます。近年の研究では、厳しい暑さが転倒や接触、機械操作時の事故など、通常は「暑さが原因」とは考えにくい労働災害にも影響する可能性が示されています。
暑さのピークを過ぎた後も、今年起きたことを振り返り、次の暑さにどう備えるかを考えることには意味があります。本記事では、2025年に発表された米国の大規模研究を手がかりに、猛暑が職場の安全や企業活動に与える影響を整理します。
熱中症だけではない―暑さで事故リスクが高まる可能性
2025年に発表された米国全国研究では、2023年に報告された労働災害と気象データを組み合わせ、暑さと事故発生の関係を分析しました。
その結果、暑さが厳しくなるほど労働災害が起きやすくなる傾向が確認されました。影響は屋外作業だけに限らず、製造業、運輸・倉庫業、建設業など幅広い業種でみられています。
研究では、この関係の背景として、暑熱による身体的な負担に加え、運動機能やバランス、認知機能への影響などが事故につながる可能性が考えられています。
つまり、暑さによる職場のリスクは「熱中症になるかどうか」だけではありません。熱中症として表面化していない場面でも、暑さが労働災害のリスクを押し上げる可能性があるということです。
Heat Indexが示す「感じる暑さ」と事故リスク
米国では、気温と湿度を組み合わせて「人がどれくらい暑く感じるか」を示すHeat Index(ヒートインデックス)という指標が使われています。
研究では、この値が約27℃の条件を基準とすると、約32℃では労働災害が起きやすくなる傾向が約3%、約35℃では約6%、約38℃では約10%、約41℃では約15%、約43℃では約20%高まりました。

数字から見えてくるのは、“感じる暑さ”が厳しくなるにつれて、事故リスクも段階的に高まる傾向です。同じ気温でも湿度が高ければ身体が感じる暑さや負担は大きくなるため、気温だけでは捉えにくい暑熱リスクを見るうえで重要な示唆といえます。
研究ではさらに、2023年の米国全体の労働災害のうち約1.18%、約2万8,000件が暑さに関連して発生したと推計しています。この研究を日本の職場に置き換えて考えると、暑さによる影響を「熱中症として確認された件数」だけで捉えてよいのか、という問いが浮かびます。
日本の職場でも、暑さの影響はすでに顕在化
日本では2025年、職場における熱中症による死傷者数が1,803人となり、前年から約43%増加しました。2005年の統計開始以降で最多です。業種別では、製造業365人、建設業292人、運送業220人となっています。

ここで注目したいのは、これらが「熱中症」として把握された死傷者数であることです。今回の米国研究が示すように、暑さが熱中症以外の労働災害にも関係しうるとすれば、企業が考えるべき暑熱リスクは、熱中症として見えている数字よりも広い可能性があります。
また、2025年6月からは一定の暑熱環境下で長時間行うことが見込まれる作業について、熱中症のおそれがある人を早期に把握する体制や対応手順の整備、関係者への周知などが事業者に義務付けられています。暑さへの対応は、現場任せの注意喚起ではなく、組織として準備するテーマになっています。
今年の猛暑を、企業の「物理的リスク」として振り返る
今年の猛暑を振り返るうえで、もう一つ重要なのが、暑さを従業員の健康管理だけの問題として終わらせないことです。
気候変動による「物理的リスク」は、洪水や台風だけではありません。長期化・深刻化する猛暑も、人員や設備、事業活動に直接影響するリスクの一つです。

製造現場で事故が起きれば生産ラインの停止、物流拠点では出荷や配送の遅延、建設現場では工程の遅れにつながる可能性があります。暑さの影響は、人の安全を起点に事業そのものへ波及し得ます。
今年どの時間帯・どの作業で負荷が高まったのか、どの対応が間に合わなかったのかを振り返ることは、次の猛暑への備えになります。こうした経験を業務や働き方の見直しにつなげることが、気候変動への「適応」です。
次の猛暑に備え、仕事のやり方を組み替える
次の猛暑に備える際、対策の選択肢は水分補給や休憩の徹底だけではありません。高リスクとなる時間帯を事前に把握できれば、負荷の高い作業を比較的涼しい時間へ移す、屋外作業を屋内へ切り替える、人員配置や休憩時間を見直すなど、仕事のやり方そのものを調整できます。
「ウェザーニュース for business」では、1km単位の予報で72時間先まで熱中症危険度や警戒情報を確認でき、暑熱リスクが高まる時間帯を先読みした業務判断を支援します。
例えば、建設現場では高負荷作業の時間変更、物流では荷役時間や人員配置の調整、製造では屋外工程や保守作業の時間変更など、具体的な対応を検討する際の判断材料として活用できます。

今年の経験を振り返り、「次にいつ危険になるか」を先読みして、仕事のやり方を変える
出典
・気象庁「真夏日などの地点数」― 2026年の猛暑日・酷暑日の観測状況
・厚生労働省「職場における熱中症予防情報」― 2025年の職場における熱中症死傷者数および業種別発生状況
・厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」― 2025年6月施行の労働安全衛生規則改正
・環境省「気候変動の物理的リスク評価の手引き-気候変動適応で企業価値を高める-(2025年度版)」
・ウェザーニューズ「企業の熱中症対策」― ウェザーニュース for business
※米国研究で示した約3〜20%は、統計上の「事故発生のオッズ比」の変化を一般向けに「事故が起きやすくなる傾向」と表現しています。日本国内における労働災害の増加率を示すものではありません。

























